歩くようになり、強くなった人間

 

また教えてほしいことがあって来ました。よろしくお願いします。

ほう、今日はライフくんも一緒か。ライフくんには、私も聞きたいことがあるぞ。それはともかくとして、カホちゃんは何を知りたいのかね。

人はどうやって強くなってきたのか、強くなる方法を教えてください。

ドクターケイそれはまた壮大なテーマじゃないか。どこから話せばいいかな…。

20万年ぐらい前に人類が誕生した話はしてあるので、そこからざっと振り返ってもらえれば。

なるほど。では人間とチンパンジーが生物の種として近いことは知ってるね。

ゴリラとかオランウータンも合わせて類人猿と呼ばれるんでしょう。

そうだ。ただし近いけれども、大きな違いもある。その違いが何だかわかるかな。

動き方かな?それとも歩き方といった方がいいのかな。

その通り、人間の歩き方は「直立二足歩行」という。これに対してチンパンジーの歩き方は「ナックルウォーク」といって、握りこぶし、英語でいうナックルを地面につけて歩く。ちょっとライフくんに聞きたいんだが、君はどうやって歩くのかね。

う~ん、なんといえばいいのかな。歩くというより動くといった方が正しいと思うんだけど。

ライフくんって足みたいなのがたくさんあって、とってもおいしそうな体に見えちゃう。

またアイコさんは、すぐに食べる話に持っていこうとする。そうじゃなくて、大切なのは、なぜ人間は2本足で歩くようになったのかでしょう。

チンパンジーたちは主に木の上で暮らしていて、人間の祖先も同じように木の上で暮らしていた。その方が安全だからだ。ところがいつからか人間の先祖たちは地上で暮らすようになった。

どういうことだろう?チンパンジーたちが木の上で暮らしていたのは、自分たちを襲ってくる他の動物たちから身を守るためでしょう。それなのに人間の祖先は、その安全な場所からわざわざ危険なところで暮らすようになったということ?

そうだな。だから人間は、直立二足歩行するようになったと考えられている。つまり直立して立っている方が、少しでも遠くを見ることができる。そして二足歩行のほうがすばやく動けるからだ。

素早いといっても、単純に走ったら人間より速い生き物はいくらでもいるよね。

それでも、人間は二足で歩くことを選んだ。そして結果的に強くなった。なんだか不思議だよね。

 

頭を使い、考える力で強くなった

 

いまカホちゃんたちは「家」の中で暮らしているけれど、人間は大昔から家で暮らしてきたの?

大昔は洞窟みたいなところに住んでいたようだ。雨や風を防げるし、恐ろしい動物たちからも身を守れるからな。

人間が洞窟で暮らしていた頃って弱肉強食の世界だったわけでしょう。力の強さで考えれば、人間は大きな動物たちにかなわないし、いくら2本足ですばやく動けるといっても、走る速さではライオンに絶対に負けるよね。そこが不思議なの。弱い人間が生き残ってきて、しかも、今は地球上でいちばん偉そうにしているじゃない。どうして、そんなことができたのかな。

偉そうにしているけれど、偉いかはどうかは別よね。ただひとつ人間と他の動物たちの違いがあるとしたら、食べるものじゃないかな。

さすが食べることの大好きなアイコさん、良いところに目をつけたな。

動物は大きく肉食と草食にわかれるけれど、人間は雑食でどっちも食べるんだよね。そうか、とりあえず手に入るもので、食べられるものなら何でも食べちゃう。その方が生き残るのには有利ってことか。

そして直立二足歩行によって、人間は他の動物にないものを手に入れた。それがなんだかわかるかね。

え~っと、もしかしてアタマかな。体の大きさの割に、人間の頭は他の動物たちと比べて大きいんだよね。

頭の中には何が入っているのかな?

脳でしょう?そうか人間は脳で考えるんだ。もちろん他の動物たちも脳があって考えているとは思うけれど、人間のほうが脳が大きからいろいろたくさん考えるってことかな。そういえば、大昔に人間が暮らしていた洞窟には絵が描かれていたと習ったよ。絵を描く生き物って、たぶん人間しかいないよね。

他にも動物にはなくて、人間だけが持っているものがあるだろう。

道具もそうだよね、火を使えるようになったのも人間だけなんだ。動物たちにとっては、火は恐ろしいだろうな。

そうか、人間は2本足で歩くようになって、頭が大きくなって、いろいろ考えられるようになって…、力では勝てない動物たちよりも強くなったわけだね。

 

体の中にも味方がいる

 

大昔の人間たちにとっては、もう1つ、とても恐ろしい敵がいた。それが何かわかるかな。

恐竜たちは、人間が誕生した頃にはもういなかったでしょう。

敵は必ず大きいとは限らないかもよ。

ということは、もしかしたらこの間教えてもらった病原体のこと?

いま人はだいたい何歳ぐらいまで生きられるか、知ってるね。

男の人が80才ちょっとで、女の人は90才近くまでだと聞いたことがある。

日本でもいろいろな場所で、昔の人の骨が見つかっている。例えば縄文時代の遺跡から見つかった骨を詳しく調べれば、それが何歳ぐらいの人のものかがわかる。

縄文時代の人たちは、何才ぐらいまで生きていられたと思う?

まったく想像がつかないなあ。たぶん、今の私たちより寿命は短かったんだよね。

どうして、長生きだったとは思わないんだい?

それは、そんな大昔にはお医者さんはいなかったでしょう。だから病気になっても治してもらえなかったんじゃないかな。

人はどうして病気になるのかな?

細菌やウイルスなどの病原体が体の中に入ってくるからだよね。そうか、暮らしている環境が今みたいに清潔じゃなくて、バイキンたちがたくさんいたんだ。そして病気になってもお医者さんはいないし、薬もなかった。

だから縄文時代の人たちの寿命は、せいぜい30年ぐらいだったといわれている。

たった30年!僕らだったら一瞬だ。

それでもね、人間は少しずつ長生きできるようになったんだよ。その秘密の1つは、体の中にいる味方のおかげなの。

体の中の味方って、どういうことだろ。もしかして別の生き物がいるっていうこと?

その話は前にしたことがあっただろ(「食べる編」参照)。

思い出すからちょっとまってね…。そうだ、腸内細菌だ。欧米の人は海苔巻きを食べるとお腹をこわすけれど、私たち日本人はなんとかいう腸内細菌(バクテロイデス・プレビウス)が大腸にいるから消化できるんだって。病原体に対しては、自分の体の免疫も活躍してくれるんだよね。そうかあ、いろいろな力に守られて、人間は強くなってきたんだ。

 

強くあること、健やかであること

 

いろいろ話を聞いていると、人間ってとんでもない生き物に思えてきたよ。地球には人間の他にいろんな動物や植物が生きているのに、人間だけがそれらを自分たちの都合のいいように利用している。そのおかげで食べものに困ることはないし、病気になっても薬で治せたりする。ちょっとズルいんじゃないかな。

いわれてみれば、そうかもしれない。

人間がそうやって生き残ってこれたのには、直立二足歩行するようになったことが強く影響している。これは進化といえるのかもしれない。

おそらく大昔は、人間もチンパンジーのようにナックルウォークしていたはずだ。ところが突然変異が起こって、直立二足歩行する人間がでてきた。すると直立二足歩行するほうが、生きていく上ではいろいろ有利、つまり強くなれたということだ。

だからナックルウォークしかできない人間は、淘汰されたんだよね。

そして道具や火を使えるようになって、他の動物たちよりもどんどん強くなっていった。だけどとても悲しいことだけれど、今度は人間同士が争うようになったのね。

まさか、食べものの取り合いをしたとか。

冗談じゃなくて、例えば長い間天気が悪かったりしたら、当然食べものをとれなくなるよね。食べないと生きていけないから、生きるためには何とかして食べものを手に入れなければならないでしょう。

だから人間は、食べものをつくるようにもなったんだ。

狩猟生活から農耕生活に変わっていったんだよね。

そして食べものに困らなくなると、今度はまたつまらないことで争ったりするんだけれどな。

サイエンスイ星では、争いごとはないの?

もちろんだよ。仮に争って、どちらかがやられたとしても、僕たちは生き返ることができるんだからね。

そうかあ、死なないというのは最強だね。

でも、僕はカホちゃんを見ていて、いつもうらやましいと思ってるんだ。

どこが?

いつも生き生きしていて、毎日楽しそうに笑ってるじゃない。比べてみるとサイエンスイ星で暮らしている仲間たちは、カホちゃんのように生命力にあふれていないような気がする。

ライフくんたちのほうが、うんと長生きできるのにね。でも、1200年も生きていたら、何を食べてもおいしいって驚くことがなくなるかもしれないね。

そもそも僕らは何を食べても「おいしい」とかわからないんだよ。あくまで生きるためのエネルギー源を体の中に入れているだけだから。

おいしくなくても食べられる、それって強みかもよ。

 

 

・人間は地球の生き物の中でも特別な存在なんだ

・人間が強くなれたのは、考える力を持ったからだ

 

カホちゃんのギモン シリーズ