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地球上で生物が誕生したのは、約38億年前といわれています。
最初の生物は単細胞と考えられており、その後にこれも単細胞の真正細菌と古細菌が誕生しました。
それから生物は絶え間ない進化を経て、今に至っています。
この間、驚くべきことに最初の生物から私たち人類に至るまで、
38億年にも渡って脈々と受け継がれているものがあります。
それがセントラルドグマ、遺伝情報がDNAからmRNAへと転写され、
mRNAからタンパク質へと翻訳される原則です。
植物や動物、単細胞あるいは多細胞の別を問わず、
およそ地球上の生物は、すべてセントラルドグマに従っています。
では、セントラルドグマは、どのようにして成立したのでしょうか。
これは生命の起源につながる問いです。

生命の起源に迫る
RNAワールド仮説

1986年、アメリカの生化学者ウォルター・ギルバートが「RNAワールド仮説」を提唱しました。生命誕生の起源として、まずRNAからなる自己複製系が誕生し、これが後に生物へと進化したとする仮説です。
もちろん、あくまでも「仮説」であり、生命の起源を宇宙に求める考え方があれば、さらにはRNAが成立する前により単純な構造を持つ原始核酸とも呼ぶべき物質が存在したのではないかとする学説も発表されています。生命の誕生については、一体どう考えればよいのでしょうか。
「疑問に思ったら、まずは自分で調べてみよう」と、いつもハヤモンから教わっていたカホちゃんは、図書館に行って自分でいろいろ調べてみました。その結果、単純だけれど純粋で深遠な疑問を抱いて、NOMON研究所にやってきました。

地球で最初の生物から受け継がれているもの

この間、遺伝についていろいろ教わったでしょう。私は、お父さんとお母さんからいろいろ受け継ぐ形で生まれてきて、私が大人になって結婚したら、私の子どもにまた受け継ぐものを渡していく。タケGのお家のように、500年も前から受け継がれている家系があるのもわかったの。しかもタケGのお家は単に500年間続いているだけじゃなくて、先祖代々多くの人に体格も受け継がれてきたようで、武道の達人が多いんだって。遺伝って、すごいことだよね。

そのとおりだな。遺伝、つまり過去からのつながりといえばつい最近、日本人のルーツにつながる発見があったようだ。日本人の起源が縄文人、弥生人、古墳時代人と時代も特徴も異なる3つの祖先に由来するという研究成果が発表されていた。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abh2419

日本人が3つの祖先をルーツにしているという発見もすごいよね。

その中で1番古いのが、確か縄文人で、その縄文人も元をたどっていけば、20万年前ぐらいに誕生したホモ・サピエンスに行き着くんでしょう。そして、さらに元をたどっていけば、地球上で生物が誕生したのは38億年前ぐらいの話になる。生物って不思議ですごいなあと思って、また図書館で本を少し読んでみたの。そうしたら、もうびっくりしたというか、信じられないような話があった。

またカホちゃんは、一体何を見つけたのかな。

地球上の生物すべてに「セントラルドグマ」というルールが受け継がれていて、みんなそのルールに従っているんだって。それこそ単細胞の細菌たちから私たち人間まで、動物も植物もみんな同じルールだって書いてあったの。

カホちゃんが、ハヤモンとユッキーからいろいろ受け継いで生まれてきたのも、そのセントラルドグマのおかげだな。

本にはね、こう書いてあったよ。意味はよくわからないけど、大切だと思ってメモしてきたんだ。え〜っとね、「セントラルドグマとは、遺伝情報が「DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達されるという分子生物学の考え方」なんだって。分子生物学って、私にはまだわかないんだけど…。

分子生物学は大学で学ぶから仕方ないよね。とはいえ元になるDNAが受け継がれていくから、カホちゃんはお父さんやお母さんの情報を受け継いでいるんだよ。DNAとかRNAというのは情報を伝える仕組みのことね。

そのとき、不思議に思ったの。この仕組みが、地球上のすべての生物に共通しているのだとしたら、最初の生き物はどうだったんだろうって。

地球の最初の生き物については、いろいろな考え方があって、残念ながらまだどれが正解なのかはわからないんだ。

※http://www.kenq.net/dic/64.htmlより

分子生物学について

 

RNA仮説からプレRNA仮説へ

カホちゃんの質問、ドキッとしましたね。

妙に鋭いというか、本質を突いてくることがあるんだ。親としてはうれしい限りだけど。

地球最初の生き物誕生については「RNAワールド仮説」も1つの説だ。RNAは単に遺伝情報を運ぶだけではなく、酵素のように触媒反応も担う機能を持ち、さらに遺伝情報の格納庫にもなりうる。つまりRNAだけでセントラルドグマが成立する。だとすればDNAよりも簡単な構造のRNAのほうが先にできたはずであり、ここから生命が誕生したと考えるわけだ。

一方ではパンスペルミア仮説もありますね。生物の源は宇宙のどこかで誕生し、その生物が隕石などによって地球に運ばれたという。

火星に海があるのはほぼ間違いないようだし、水のある星は、他にもいくつかある。ただ仮にRNAワールド仮説の立場で考えてみたとしても、疑問は残るんじゃないかな。DNAと比べれば複雑ではないとはいえ、RNAも十分複雑だ。そんな構造を持つ物質が果たして偶然にできたのだろうか。

そこで私が注目しているのが、2021年の2月に名古屋大学の研究チームによって発表された研究成果だ。RNAワールド仮説の前段階として、さらに単純な構造を持った原始核酸、つまりxNAとでも呼ぶべきものが存在し、これによる「プレRNAワールド」が存在していたのではないかと考える。この仮説に基づいて研究チームは、原始核酸を有機小分子と金属イオンだけで配列複製できる事実を発見した。

https://www.nature.com/articles/s41467-021-21128-0

つまりRNAよりも簡単な構造の物質があり、それは酵素に頼らずに自己複製できるのですか。

しかも、この物質、L-aTNAは相補的なL-aTNAと二重鎖を形成したり、さらにはRNAやDNAとも結合して二重鎖を形成したと確認されている。

最初のRNAがどうやって生まれたのかが、この研究成果によって説明できる可能性が出てきそうだ。

 

パンスペルミア仮説について
 

それでも残るコドンの謎

RNAワールド仮説とは別にもう1つ、個人的にとても疑問に思っているのがコドン、いわゆる遺伝暗号の起源です。

これもまた、カホの疑問に引けをとらない本質的な問いかけだな。

3つの塩基で1つの暗号単位となる、このコドンの構造も全生物共通とされているじゃないですか。要するに3個の塩基によって1つのアミノ酸が規定される。この3個1組の塩基配列をコドンと呼ぶ。塩基が4種類あるから、コドンは4×4×4で64個あり、生物を構成するタンパク質の元となる20種類のアミノ酸を網羅できる。

基本中の基本であまり深く考えてこなかったけれど、いわれてみれば引っかかるね。

コドンが2個1組だったら、20種類のアミノ酸を網羅できない。4個1組だったら、不必要に種類が多くなる。だからコドンは塩基3個で決まるんだ。たしか、教科書にはそう書いてあったように覚えています。なんとなく納得させられるようでいて、今ひとつ腑に落ちないんですよ。

正確にはヒトを含む脊椎動物のミトコンドリアで使われている遺伝暗号は、標準とされる遺伝暗号とは少し違うし、マイコプラズマのような真正細菌でも違う暗号が見つかっているね。

真正細菌と古細菌、そして真核生物が生命の3大ドメインですよね。だとするとそもそも地球上に存在する生物種のうち、一体どれだけの生物の遺伝暗号が解読されているのでしょう。

※出典:

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2020/pr20200116/pr20200116.html

 

地球上の生物自体、どれだけの種類があるかわかっていないからな。これまでに知られているものの総数がざっと175万種、けれども未知の生物も含めれば500万から3000万ぐらいといわれているほどの幅がある。そのうちで遺伝暗号を解読した数となると、おそらく1000種にも届かないんじゃないか。

仮に1万種を解読できたとしましょう。それで未知の生物が最小で500万種だとしても、わかっているのはわずかに0.2%ですよね。とすれば、遺伝暗号のまったく異なる生物種が存在してもおかしくないでしょう。逆に考えるなら、仮にまだ解読されていない生物も含めて、遺伝暗号はほぼ共通しているのだとすれば、それは一体どうやって決まったのでしょう?RNAワールド仮説、プレRNAワールド仮説のどちらを出発点としてもよいのだけれど、最初にDNAを持つ生き物が誕生した時点で、コドンが決まっていたのでしょうか?

だからこそ生命は、1つの細胞から発生して進化したと考えられているわけだけれどね。

遺伝暗号の成立については、ジェームズ・ワトソンと共同でDNAの二重螺旋構造を発見したフランシス・フリックが偶然凍結説を唱えている。要するに遺伝暗号は進化の過程で「偶然」決まり、それが「凍結」されて現在に至るという考え方だ。もちろん、この考え方にも異論はあると思うよ。

「凍結」って、要するにそこで固まってしまったということですね。

 

生命は、どこから受け継がれてきた

少し前ですが、隕石から生命を構成する糖、リボースが見つかったじゃないですか。

東北大学、北海道大学などの研究チームの発表だな。

リボースはRNAを構成する分子であり、そのリボースが隕石から見つかった。つまり宇宙には生命を構成しうる糖が存在するわけだ。

https://www.pnas.org/content/116/49/24440

 

リボースの発見は、パンスペルミア仮説の裏付けになる可能性がありますね。あるいはリボースが地球に隕石とともに地球に飛んできて、そこから生命が誕生した可能性も考えられます。

アミノ酸にしても、その起源についてはいろいろな説があるからな。リボースと同じように隕石の中から発見されたアミノ酸もある。

隕石中のアミノ酸については1969年に発見された「マーチソン隕石」が最初で、その後にも宇宙から落ちてきた隕石を調べると、70種類以上ものアミノ酸が見つかっている。その多くは非タンパク質アミノ酸だけれど、宇宙にはさまざまなアミノ酸が存在していて、それらによって未知のタンパク質を構成される可能性もあるんじゃないか?

やはり生物は宇宙で誕生して、なにかの偶然で地球にやってきた。個人的には、そう考えたほうが納得できそうな気がします。ライフ君みたいな宇宙人もいますしね。

RNAワールド仮説とパンスペルミア仮説があり、さらにはプレRNAワールド仮説も出てきたのが現状だ。科学の進化に伴って、あるいは宇宙観察の進化も相まって、まだまだ驚くような仮説が出てくるんじゃないだろうか。

 

ハヤモンの心の中にわいた疑問

生命は、一体どうやって誕生したのか。さらに誕生した生命は、どうして1つのルールを守っているのか。しかも生命が誕生した段階で、既にセントラルドグマのような複雑精緻な構造が完成したいのか。生命の起源については、謎ばかりだ。

 

<用語集>

分子生物学

生命現象を分子レベルで把握し解明しようとする学問であり、現代生物学の中心分野となっている。

パンスペルミア仮説

スウェーデンの物理化学者スパンテ=アレニウスが提唱した仮説。地球上の最初の生命は、他の天体で発生した微生物の胞子のようなものが、隕石や彗星に付着して地上に飛来したものだとする。

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