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人が生きていくためには、食事すなわち「食べる」ことが欠かせません。
『会話篇』では、食事がもたらす影響から始まり、
食べたものの体内での処理までを大まかに見ていきました。
『マニア編』では、食べものを「シグナル」として捉えて、
食べたものが体内でどのような影響を及ぼすのか、
食べものと健康長寿の関係性などについて紹介していきます。

細胞が悲鳴をあげるとき

食べものは分子レベルにまで分解されて、細胞に運ばれる。そして細胞内でATPに変換されて、エネルギー源として使われる。生きていくために必要なのが5大栄養素、炭水化物、たんぱく質、脂質、ミネラル、ビタミンです。では、何をどれぐらい体の中に取り込めばよいのか。食べものの配分と量は、極めて難しい問題をはらんでいます。特にいわゆる先進国では、食べものが安く豊富に手に入る環境にあり、その結果さまざまな問題を引き起こしてもいるのです。

健康の元であり、病気の引き金でもある

カホがいってたように、食べものにより体型が変わってくるのは明らかだし、何を食べるかによって、その人の健康状態も大きく左右される。例えば、日本人は1日平均塩分を10グラム取っていて、これは取り過ぎだといわれてる。ただ、不思議なのは、どうして塩分を取りすぎてしまうのかということ。

それこそ、シグナルじゃないか。動物はナトリウムを使って生命を維持している。ナトリウムは、細胞膜の内外での濃度維持や電位差に関わる重要な物質だ。だからナトリウムなしには、人は生きてはいけない。そこに進化の問題が絡んでくる。

大昔、海から陸に上がった生物にとって、何がいちばん不足するかといえばナトリウム、つまり塩分だ。海の中で暮らしている分には、ナトリウムに困るはずもないからね。塩のない陸上で我々の先祖たちは、どうやって生きのびる術を得たか。そのカギは舌にある。塩の味を感じるセンサーを舌の上に発達させることによって、わずかな塩分を感じ取れるようになったのだろう。

では、糖はどうなのかしら。私は、糖分にもすぐに反応してしまうんだけど。

もちろん糖分も重要なシグナルだ。炭水化物は重要なエネルギー源になるわけだから。ただ甘いものといっても、かつては果物ぐらいしかなかった。果物はフルクトースの供給源だな。サトウキビが栽培され始めたのが、紀元前8000年ぐらいからといわれているけれど、今のような結晶化した砂糖が人工的につくられるようになったのは、18世紀に入ってからだ。つまり糖分はとても貴重だった。だから、人間は甘い食べものがあると、つい手が伸びてしまう。

けれども、甘いものには文字通り「甘い」罠が仕掛けられている。例えば糖分含有量の多い食べものをとると、ドーパミンが放たれて脳の報酬回路を活性化させる。これは正のフィードバックループだから、食べれば食べるほど甘いものを食べたくなる仕組みだね。

ドーパミンについて

 

まさにシグナルですね。私の甘いもの報酬回路って、かなり活性化されてそうな気がする。もちろん糖分だけじゃなくて、塩分のとりすぎもだめですよね。

食べ過ぎ問題と食べなさ過ぎ問題

 

とり過ぎが問題になるのは、塩分や糖分に限った話じゃなくて食べものそのものも大問題だよ。自慢じゃないけど私は20代後半に1度、体重が90キロを超えたことがある。そこからダイエットに成功したものの、またリバウンドして80キロを超えていた。ちょうどその頃にドクターケイと出会って『最強の食事』を教わった。その結果、ようやく62キロの健康体で落ち着くようになったわけだ。

確かに初めて会ったときのアツモンは、かなりいかつかった。

ところが4歳年下の弟は、若い頃は57キロだったのが、40歳を過ぎて52キロまで減ってしまった。1度は60キロ台になってみたいといってるけれど、どうやら無理そうだね。これを世間では体質というのだが、実はそんなひと言で簡単に済ませられる問題じゃないのではないかな。弟とは遺伝的要因にそれほど違いはないはずで、やっぱり環境要因が大きいのかと思うんだ。私は30代になってから、ずっとアメリカで暮らしているからね。

アメリカンフードを食べていると、太りやすそうですね。

太るのとは反対に飢餓の問題も深刻で、世界人口のうちで8億人ぐらいは、食料が足りていないといわれている。やせ過ぎは骨にダメージを与えるし、将来の骨粗鬆症も心配で、メンタル面にも悪影響があるようだ。

一方で肥満人口は飢餓人口の1.3倍、しかも40年間で激増してますよね。これも見過ごせない問題じゃないですか。

今では糖尿病パンデミックなんて言葉もあるらしいな。中国では糖尿病患者がすごい勢いで増えていて、今やアメリカをぶっちぎって世界トップ、患者さんが1億1400万人もいるそうだ。

中国で多いのは食生活の洋風化も一因だろうけれど、本質的な原因は膵臓β細胞じゃないかな。アジア人は膵臓β細胞が弱い。だから膵臓β細胞の細胞量と細胞機能が低下してインスリン分泌不全となり、ひいては高血糖症が引き起こされやすい。糖尿病で問題なのは、いろいろな合併症を引き起こすことだね。

膵臓β細胞について(用語集へリンクをはる)

 

ハヤモンの心の中にわいた疑問

同じ量だけ食べていても、太る人と太らない人がいる。その理由は、遺伝子にあるのか?

栄養の源はストレスの源にもなる?

最近よくいわれるようになったのが、糖分過多が老化にもつながるという話。これもシグナルで考えるなら、糖分が老化を引き起こすシグナルとして働くということだ。

糖化ストレス、つまりAGEs(Advanced Glycation End-product)だね。メイラード反応によってカルボニル基とアミノ化合物が反応して変性する。わかりやすくいうと、肉を焼くとこんがりした褐色になるけれど、これと同じようなことが体内で起こるわけだ。ポテトを焼いたり、パンを焼いたりしたときにできるのも同じだね。

AGEについて
メイラード反応について

 

でも焼いたお肉も、フライドポテトも、トーストもどれもおいしいじゃないですか。

そこがくせ者で、問題はそのAGEsでしょう。これは糖化最終生成物と呼ばれて、体にさまざまなストレスをもたらす。例えば肌の色がくすむとか。

糖化は老化につながりかねないね。肌の色がくすむぐらいならまだしも、糖化が進むと肌の張りが失われてしまい、いわゆる「老け顔」になるおそれもある。実際に30歳ぐらいから糖化率が高まるといわれている。メカニズム的にいえば、糖化は肌の弾性繊維に影響し、さらにコラーゲンにもダメージを与えるわけだ。

女性にとって糖化はかなりこわいですね。

糖化物質が引き起こす細胞反応もわかってきている。細胞内には糖化物質の受容体があり、これが活性化すると活性酸素を生み出したり、炎症反応を起こす。つまりAGE受容体によってシグナルが働き、無菌性の炎症が起こる。

糖化が脳に影響するという話もある。糖尿病患者は、若い頃からの認知機能低下がいわれているようだし、アルツハイマー型認知症の患者は、そうでない人に比べて3倍ほどAGEsが脳内に蓄積していたというデータもあるようだ。

 

老化を引き起こすサビとコゲ

糖化が老化に影響するというなら、酸化も同じでしょう。酸化の話は以前も出たけれど、要は体のサビじゃないですか。活性酸素が細胞を傷つけて酸化ストレスを引き起こす。臓器や組織がダメージを受けると、年齢にふさわしい働きをできなくなり、老化が加速される。

そして糖化も同じように体にストレスを与える。酸化が体にとってのサビだとしたら、糖化はまさにコゲだね。AGEsは飲酒によってもつくられてしまうから、飲み過ぎには注意したほうがいい。アルコールからできたアセトアルデヒドは、ほかにもいろいろなものに作用してDNAの変異を引き起こすという話もある。

つまり、こういうことか。食べものはシグナルとして、体、厳密にいえば細胞にいろいろな作用を引き起こす。なかでも老化につながるのがサビとコゲ、つまり酸化と糖化だ。そして食べものがシグナルとなって、老化が引き起こされるのだとしたらどうなる。

逆に考えれば、老化につながるシグナルを体に与えなければいいということか。食べもので老化を防げる可能性はあるわけだ。

わかりやすい例を1つあげるなら、豚肉を食べるならきつね色にこんがりとあげたトンカツではなく、お湯でさっと茹でる豚しゃぶにするとかですね。

豚しゃぶの鍋に白菜など食物繊維が多く含まれる野菜をたくさん入れておいて、豚肉を食べる前に野菜をたっぷり食べておくとよりよさそうだ。野菜の不溶性食物繊維が先に小腸に入っていれば、後から糖分が入ってきても吸収を抑えてくれる。

食べもの1つといっても、毎日三食とるわけだから、そこでどんなシグナルを体に入れるのかは、健康長寿の大きなカギになるわけですね。

用語集

ドーパミン

神経伝達物質の1つで、快く感じる原因となる脳内報酬系の活性化において中心的な役割を果たしている。

 

膵臓β細胞

細胞内グルコース代謝を介してインスリン分泌を制御している細胞。この細胞の異常が2型糖尿病を発症する仕組みの一部となっている。

AGE

糖化最終生成物とも呼ばれ、タンパク質と糖が加熱されてできた物質。強い毒性を持ち、老化を進める原因物質とされる。

 

メイラード反応

魚や肉、パンなど食材の中に含まれるアミノ酸と糖が加熱によって結びつき、起こる反応。香ばしい風味と褐色の焼き色が出る。

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