こころが気持ちを整える
はい。ありがとう。
カホちゃんも、かなり座禅に慣れてきたようだな。
タケGのおかげだと思う。最初は足を組むこともできなかったけれど。
今は半結跏趺坐なら組めるようになったし、無念無想にもなれているんじゃないか。
それはまだまだ無理みたい。だってタケGも前にいってたでしょう。目を閉じていると、食べものの妄想がどんどん湧いてくるんだって。
そうだったな。でも、円を思い浮かべていると、妄想が消えるときもあるぞ。カホちゃんも同じように、こころの中で円を描いているんじゃないのかな。
う~ん、やってはいるんだけれどね。やっぱりいろいろなことが次から次へと浮かんでくるの。
たとえば、どんなことかな。
昨日、学校であったこと、友だちとの話とか遊んでいた時の様子、家に帰ってきてから見たテレビ、晩ごはんのときの会話とか。そもそもじっと「円」だけを思い浮かべるなんて無理なんじゃないかな。
最初は誰でもそうだよ。ところが、慣れてくると「円」も消えてしまうことがある。頭の中には何も思い浮かべず、ただじっと座っているだけ。これを無念無想の境地、というのだがね。まあワシでもたまにしか到達できないのだから、カホちゃんには、まだ難しいかもしれないな。
こころは前向きに動かす
※アツモンとハヤモンが話しているところへ、タケGの家からカホが帰ってくる
また、タケGのところの行ってたのか。
そう。今朝は座禅を教えてもらったの。そうだ、アツモンも弓道の稽古をしていたんだよね。弓道も空手と同じ武道の1つでしょう。だったらアツモンもタケGみたいに座禅を組んだりしていたの?
私のやっているのは座禅というより瞑想かな。安定打坐といってね、まず静かで落ち着ける場所に座るんだ。そして神経を集中させておいて、ブザーが鳴るのを聴く。ブザーの音が消えると、無心になっている。そのときは、まさにこころまでが「しぃ~ん」とした感じになるんだ。
それを瞑想というの?
そうだよ。人間のこころの中には知らず識らずのうちに、いろいろな思いがわいてくるものなんだ。つまり放っておくと、こころはじっとしていないんだよ。そしてこころを勝手に動かしておくと、つい不平不満や文句などネガティブなことも思い浮かべてしまう。
なんとなくわかるかも。さっきタケGのところで座禅をやっていたんだけれど、無心にはなれなかった。それどころか、いろいろな思いが浮かんできて、その中には昨日あった嫌なことも結構ふくまれていた。
せっかくこころを動かすのなら、ポジティブな方向に使ったほうが良いよね。私が瞑想するのは、毎日を前向きで積極的に過ごすためなんだ。
確かに、アツモンはいつもとびっきりポジティブで、そばにいるだけで元気づけられる感じだな。
元気なこころは、まわりの人にも伝わるんだね。
基本的に、人のこころはいつも動いているんだ。そしてマイナスにもプラスにも動く。そこで少し意識して、いつもプラスの方向に動くようにしてみると、ものごとの見え方が変わってくるんだよ。もちろん、自分のこころの動きは、まわりの人にも伝わるしね。
じゃあ、テレビのニュースなんか見ていると、私かなり怒っちゃったりするんだけど、これもこころを動かされているからなのかな。
ニュースは、人の興味を引きつけるために、怒りたくなるような話題を取り上げることが多いんだ。どうしても悪いニュースに、人の関心を持ってしまいがちだからね。
ニュースを見ていると、どうして世の中はこんなにひどいことばかりなのって悲しくなることもあるけれど、本当はそんなことばかりじゃないよね。
そのとおりだよ。ニュースなどに惑わされずに、世の中を冷静に受けとめるためにも、瞑想するといいんだよ。
こころは自分でつくる
※カホ、ユッキー、アイコさんと一緒に水族館にいるライフくん
うわぁ~、なんかいっぱい生き物がいるね。なんだこれは。
お魚さんたちだよ。ライフくんに似た生き物もいるんだけど、わかるかな。
わかるよ。僕にそっくりなのもいるなあ。なんだい、あのふわふわ浮いているのは。
あれはベニクラゲさんだね。
ほんと、よく似てるわね。ライフくんもベニクラゲみたいに、水の中で浮いていられるんじゃないの。
やったことないけれど、たぶん大丈夫だと思うよ。
カホは小さな頃から水族館も大好きだったよね。
水の中を自由に泳ぎ回っているお魚さんたちを見ていると、自分も何か自由になれるような気がするんだ。
わかるなあ、その感覚。魚を見ていると自由だよね。自由といえば、こころを伸びやかに広げてくれる音楽を聞いても、同じような気持ちになったりしないかな。
音楽も確かにそうね。あとわたしの場合は絵を見て、そこからイメージを自分の中で広げていくのも、とっても心地よいかも。
魚が泳いでいる姿に音楽や絵も、地球人のこころっていろいろなものに動かされるんだね。そして見るものや聞くもの、もしかしたら食べるものや感じるものによっても、ここちよくなったりそうじゃなかったりするんだ。
もっちろん、食べるものは何より大事よ。
ということは、食べものも含めて、できるだけここちよくなるものだけを、自分の中に入れればいいんだ。
実際には、まわりには人もモノもいろいろなものがあるから、自分にとってここちよいものだけを、自分の中に取り入れるのは難しいけれどね。
でも、アツモンが話してくれたように、何でもできるだけプラスになるように受け止めればいいのでしょう。
カホのいうとおりだね。こころは、それこそ自分のこころがけ次第で変わるんだよ。
さよなら、ライフくん
※水族館から出てきて、前の公園で話をするカホとライフくん
水族館、どうだった。楽しめた?
うん。サイエンスイ星と違って、地球にはいろいろな生き物がいるんだなぁって思った。人間一つとっても、サイエンスイ星人から見るとすごい複雑な構造になってるし…。
振り返ると、これまでカホちゃんには、ほんとうにいろいろ教えてもらったよね。
そうだったっけ?
最初は息する話だった。カホちゃんたち地球人は呼吸をして生きているわけでしょう。体の中に取り入れた酸素が、血管を通して細胞にまで運ばれていき、エネルギーをつくっているって教えてくれたじゃない。
血管で運ばれていくといえば、食べ物の話もそうだったよね。
そうそう、最後はウンチになるとか、地球人の体の中では別の生き物、腸内細菌が100兆個も生きているとか、食べもの次第で長生きできるって話もあったね。そして感じる話も教えてくれた。
五感のことだね。人は感じたことを脳で理解しているんだ。ということは、やっぱりこころも脳の中にあるのかもしれないね。
そして人間は、ずっと昔から少しずつ強くなって、今のようになった。これを進化って呼ぶんだよね!
そうそう、進化の話を聴いた頃から、ライフくんの考え方も変わったんじゃなかったかな。
うん!サイエンスイ星人は、不老不死というある種の完成形の生物だけど、その代わり、喜びや充実感が少ないんだよね。だから、サイエンスイ星人は進化という概念もほぼないんだよ。このままだと、いずれサイエンスイ星人は滅びる運命にあると言われていて、人間を観察に来たんだ。今回、いろいろ人間のことを知っていくうちにサイエンスイ星人に足りないものがわかってきたよ。」
だったらみんな地球で一緒に暮らせばいいのに。
そうだね。一緒に暮らしているうちに、もしかしたら僕たちサイエンスイ星人が、地球人から何かを受け継げるかもしれない。地球の人たちが、遺伝子を親から子へとずっと受け渡していくのだから、その遺伝子を僕たちにも分けてもらったらいいのかも。
そうなるとすごいよね。私も、ライフくんたちサイエンスイ星の人たちと、仲良く暮らせるようになったらうれしいな。
カホちゃん、ありがとう。カホちゃんは、本当にやさしい人だね。地球に来ていちばんうれしかったのは、カホちゃんに会えたことだよ。だから、こんな話はしたくなかったんだけど…。
どうしたの?
実は、サイエンスイ星に戻らないとならないんだ。
え?どうして! ずっと地球にいるんじゃなかったの?
サイエンスイ星人との違いが分かってきたから、いち早く地球の様子を報告しなければならないんだよ…。
なんだ、それなら報告したら、また戻ってくるよね?
うん。戻ることはできると思うけど…。これから地球で体験したことを分析して、サイエンスイ星人にどのように活かしていくかを研究していくことになるんだけど、どのくらいかかるのかわからない。だから、次に地球に戻るのはいつになるかわからないんだよ。
そうなんだ…。寂しくなっちゃうなぁ…。
ライフくんと過ごしていて感じたのは、ライフくんの驚きや発見が、私たち人間にはすごく当たり前のことだったりして、みんな、その当たり前のこと忘れて過ごしてるんだなって。その当たり前のことが、実はすごく大切なことでもあるんだなって感じたんだよ。
まだまだ地球や人間のことをいっぱい知って欲しいし、もっと知ると、もっともっとサイエンスイ星にとって大切なことがあると思う!
地球や人間にとっても、ライフくん達のことはすごい興味あるし、私たちにとっても、まだまだ知らない大切なことがたくさんあると思う!
だから、だから、地球のこと、人間のこと、カホのこと、忘れないでね。
たまには遊びに来てね。
うん。もちろん。(サイエンスイ星から地球に来るまでには、とても長い年月がかかっているから、またカホちゃんに会えるかどうかはわからないけれど…)きっと帰ってくるよ。しばらく、さよならだ。
こうして、ライフくんはサイエンスイ星に帰っていきました。
ライフくんも寂しそうだったけど、ちょっとワクワクしてる感じにも見えました。
ライフくん、必ず帰ってきてね。わたし信じて待っているから。
<おわり>
今朝はこれぐらいにしておこうか。