音楽は、こころを揺さぶる

カホ、さっきの曲を聴いているとき、涙を流していたでしょう。

ショパンの『マズルカ』ね。確かに泣いていたけれど、決して悲しかったわけじゃないよ。ただ、聴いていて、すごくこころを揺さぶられる感じがしたの。

カホは音楽を聞くと、色が浮かんでくるのよね。

前にアツモンが教えてくれた『共感覚』の話ね。もちろん、さっきの曲を聴いているときも、さまざまな色が頭に浮かんで、とってもきれいだった。

どんな色が見えたのかな。

色をことばで表現するのはむずかしいなあ。それこそ、たくさんの色が次々と浮かんでは消えていったの。それらの色に1つ共通しているのは、原色の赤や黒みたいにきつい色はなかったことかな。淡い色がたくさん流れては消え、また浮かんでくるような感じがした。パステルカラーっていえばわかってもらえるかな。

なるほどね。じゃあ『マズルカ』をつくったのと同じショパンが、初めてつくったといわれる曲を聞いたときのことは覚えているかな。

ショパンが7歳のときにつくった曲って、有名な『ポロネーズト短調』だったよね。あの曲を聴いたときには、淡い水色が頭の中にずっと浮かんでいた。あのときは胸が少しぎゅっと締め付けられるような気持ちになったのを覚えているよ。

曲名にも記されているように、短調のメロディだから悲しい感じがするよね。

曲を聴いて胸で何かを感じるのだから、こころは胸にあるのかな。

そうねえ、こころって本当にどこにあるんだろうね。ただ、カホがもっと幼い頃には、同じショパンの曲を聴いてよく「こわい」といってたじゃない。

こわいって、そんなことをいってたかな?こわさを感じるのは、たぶん胸じゃないよね。

 

感覚とこころは、どうつながる?

※美術館から出てきたカホとライフくん

きれいな絵だったな。私は音楽を聴くのも好きだけど、絵を見るのも大好きなの。ライフくん、付き合ってくれてありがとうね。

あれは「絵」というんだね。サイエンスイ星には「絵」と呼ばれるものはないからわからないんだ。色で何か模様が描いてあるのはわかったけれど。

林の中に朝日が差し込む風景、キラキラした光を浴びて飛んでいる鳥たちなど自然を描いた絵が多かったんだけど、わかったかな?

地球に来て1年ぐらいになるけれど、まだ見たことのないものがたくさん描かれていたよ。

そっかぁ、ライフくんは私の家の近くしか知らないんだ。だから山や林の絵を見てもわからないよね。

絵を見ているよりも、絵に見とれているカホちゃんの顔を見ている方が楽しかった。

私、へんな顔してた?

そんなことないよ。ただ、カホちゃんの顔は、よく変わるから見ていておもしろいんだよ。この間、タケGに教えてもらった「楽しい」とか「うれしい」ときのカホちゃんの顔は、よくわかるようになったよ。それでいえばカホちゃんはうれしそうにしているときが多いよね。

どんなときにうれしそうにしているかな?

ごはんを食べているときは、とてもうれしそうだね。あとはタケGのワンコと遊んでいるときも、とてもうれしそうに見えるよ。

いわれてみると、そのとおりだね。確かにおいしいごはんを食べているときはうれしくて楽しくて、つまり幸せな気分ね。ワンコと遊んでいるときは、どちらかといえば楽しい感じが強いかな。

楽しいとうれしい、あるいは幸せな気分というのは微妙に違うということだね。

そうね、たぶん少し違うかな。幼稚園に入る前ぐらいは、お母さんに抱っこしてもらうのが何より好きだったの。抱っこしてもらって、お母さんとほっぺたをくっつけあっていると、なんていえばいいんだろう。とっても安心するというか、今から思えば幸せな気分を感じていたのかもしれない。

 

笑うと楽しくなるってほんと?

※晩ごはんを食べているカホちゃん一家

※家に戻ってきたカホちゃん、ハヤモン、ユッキーと3人で話している。

今日ね、ライフくんと美術館に行ったの。

ライフくん、絵を見て何かいってた?

絵を見るのは初めてだから、よくわからないって。そして絵を見ている私の顔を見て、楽しんでいたみたい。

ライフくんなりに楽しんでくれたのなら、それでいいじゃないか。カホは表情豊かだから、見ていてあきなかっただろうね。

私って、そうなのかな?

顔の表情に関係のあるちょっとした実験をしてみようか。口を開いて、口の角を上に上げてごらん。

こんな感じかな?

それで何か楽しいことを頭に思い浮かべてるんだ。タケGのワンコと遊んでいるときとか、今日のライフくんとの話とか。

ライフくんって、ほんとおもしろいよね。私にはなんでもないことでびっくりしたりしているし、なんだか笑けてきちゃう。

カホ、いま笑ってるね。気分はどう?

なんか楽しい。あれ、不思議だな。さっきまでは3人で普通に話しているだけだったのに。

最初に口を開いた形って、笑ってるときの顔に似ていると思わないか。

ちょっと待ってね、鏡を見て確かめてみる。口を開き気味にして、口の角を上に上げるんでしょう……。ほんとだ、私、笑ってる顔になってるよ。

笑っている顔になると、気持ちまで楽しくなるのは、どうやら科学的に確かな現象らしいの。笑う表情になると脳が「楽しい」って感じるみたいね。

だったら逆はどうなるの?もしかして泣くと悲しくなる?

笑ってるような表情はできても、泣いてる表情はできないんじゃないかな。無理やり涙を出そうとしても、出てはこないだろうし。

そうね。悲しいことを思い浮かべようとしても、ちょっと無理だな。そもそもそんなこと考えたくないものね。

不思議だね。人の感情って「喜怒哀楽」、つまり喜ぶ、怒る、哀しむ、楽しむってよくいわれるんだけど、この4つは感じ方や表情の出方はそれぞれ違う。

感じ方は違うけれど、感じている場所は同じなのかな?

こころで感じているのか、それとも頭でということかな。

こころって、考えれば不思議だよね。前に「感じる」ことについていろいろ教えてくれたでしょう。感じるのは確か、脳だって。

 

感じる前に、感じている

私が熱湯に手を入れた時の話ね。「あっちっち」と声を出したのが、手を入れた瞬間ではなくて、手を引っ込めてからだったって。細かいところまでカホは、よく見てたよね。

条件反射と意識の時間差の話だな。それに関係する実験を、もう1つやってみようか。今から見せる紙には、いろいろな花の写真が写っている。1つひとつの写真は少し小さいから全部で48枚並んでいるんだ。この紙をほんの少しだけ見せるから、何か気づいたことがあったいってごらん。

わかった。

じゃ、これを5秒だけ見て。

※ハヤモンから渡された紙を見るカホ

うへぇ~、なにこれ。かなり気持ち悪かったよ。

どうしたの?

だって、きれいな花の写真の中に1枚だけ、ヘビの写真が混ざってるんだから。

そのとおりだ。カホは、紙を見てヘビが混ざっているのがわかるまでに、どれぐらい時間がかかった?

一瞬というか、見た瞬間にヘビがいるってわかったけど。

じゃ、次はこれを見てごらん。

さっきと同じような花の写真ね。でも今度はヘビは混ざってないようね。よかった。

もう少し、よく見て。

見てるけど……。あれ?カエルが混ざってる。変ね、ヘビは一瞬でわかったのに、カエルはどうしてわからなかったんだろう。

これは有名な実験でね。元々アメリカの心理学者(V・ロブー)が行ったんだよ。結果からわかるのは、人の脳の中には、ヘビを素早く見つけ出す特別な回路があるらしいってこと。

それだけヘビはこわい生きものだった、ということかな。

そうだね。そしてこわさを感じるのは、やはり脳だということだ。

人は、人の顔にも早く反応するし、人が笑っていたり怒っていたりするのも、すぐわかるよね。

いわれてみれば、確かにそうね。ということは、やっぱりこころは脳の中にあるってことなのか。

 

・地球人の気持ちは、いろいろなことで動かされるようだ。

・何か刺激を受けると、感情が生まれてこころが動くということか。

 

 

カホちゃんのギモン シリーズ