友だちってなんだろう?

もちろん、私の家までよ。どうして?

自分のと合わせてカバンを2つ持って歩くのって、結構重いんだけど。

あら、そうなの。でも、私は何も持っていないから、とても楽だよ。カホは、私の友だちで、私のこと好きなんでしょ。前にそういったよね。

うん。私はアイちゃんのこと、大好きだよ。

だったら、私が喜ぶことをしてくれてもいいんじゃないのかな。

それって、私がアイちゃんのカバンをずっと持って歩くということ?

そうよ。カホがそうしてくれたら、私は家に着くまでうれしいよ。

でもね、私はカバンが重くて手がだるくなってきちゃった。

大好きな私のためにがんばってるんだって、そう思ったら少しぐらい手がだるくなっても平気でしょ。

……。

ほら、もうすぐそこだよ、私の家は。あと少しじゃない、がんばって!

……。

はい、到着。ありがとね。私は、カホがかばんを持ってくれたから、とってもうれしかったよ。また、明日もお願いね。
人の気持ちなんてわからない
※家に帰ってきたカホ、ユッキーとアイコさんがおしゃべりしているリビングに、少し憂うつそうな顔で入っていく。

おかえり、カホちゃん。あら、珍しく沈んだ顔してるね。何かあったの?

学校からの帰りにさっきまで、大好きなアイちゃんと一緒だったの。

アイちゃんって、カホの仲良しの?

そう、なんだけど……。

そのアイちゃんと何かあったのね。ケンカでもしたのかな。

そんなことないよ。アイちゃんは、ずっと機嫌が良くて楽しそうだったし。

でも、カホは楽しくなかったのね。

楽しくないわけじゃないの。私は、アイちゃんのことが好きだから、一緒にいられるのはうれしい。でもね、アイちゃんの家まで私がずっと、アイちゃんのカバンを持たされたの。

カバンを交換したの?

違うよ、私がカバンを2つ持ってたの。

どうして?

最初はね、ジャンケンして負けたほうが、次の交差点までかばんを持つことにしようって、アイちゃんがいったんだ。

それで最初にカホちゃんが負けたんだね。

そう。ところが交差点まで来たら、アイちゃんが「カホは、私のこと好きだよね。好きだったら、私のカバンを持つのはうれしいでしょう。そしてカホがカバンを持ってくれたら、私もうれしいよ。だから、ずっと持ってくれる?」っていい出したんだ。

それでカホが最後までカバンを2つ持って歩いたの?

そう。

カホちゃんは、アイちゃんが喜んでくれたから、それでよかったんじゃないの?

そこなんだよね。確かに私はアイちゃんを好きだから、そのアイちゃんが喜んでくれるのはうれしい。でもね、アイちゃんは私にカバンをもたせて平気なのかな。

アイちゃんは、カホのことを好きなのかな。

大好きな友だちだっていってくれるんだけど……。

けど、何かな?

私の「好き」とアイちゃんの「好き」は違うのかもしれない。

まさかとは思うけれど、イジメじゃないよね。

それは違うと思う。私もアイちゃんを知っているけれど、人をいじめたりするタイプではないわ。たぶん、アイちゃんには悪気などまったくないんだと思う。カホも、アイちゃんにいじめられたなんて思ってないでしょう?

そうなんだよね。アイちゃんは人をいじめたりしないもの。でも、私にカバンをもたせているときに、アイちゃんが私のことをどう思っていたのかは、今度聞いてみたい気がする。
嫌いって、どういうこと
※晩ごはんを食べているカホちゃん一家

今日ね、学校でちょっといやなことがあったんだ。

どうしたの?

男の子たちがね、アイちゃんの悪口をいってたの。それもアイちゃんのいないところでだよ。

それはいわゆるカゲグチというやつだな。人の悪口というのは、聞かされて気持ちのいいもんじゃないね。

その話を聞いていると、その子たちはアイちゃんのことを嫌いらしいんだよ。

どうしてだろうね。カホはアイちゃんを好きでしょう?

もちろんだよ。ただ、男の子たちはアイちゃんを「なんでもはっきりいうから、うっとおしい」とかいってたの。

はっきりいうって、例えばどんなことかな?

ヨシカズくんは算数ができないねとか、タカオくんは漢字が苦手だなあとか。

それは悪口とまではいかないかもしれないけれど、いわれたほうは確かにうれしくないだろうな。

でもね、アイちゃんはちゃんと人をほめたりもするんだよ。カツノリくんは理科がとっても得意ですごいなとか、ケイちゃんは体育のときめっちゃかっこいいよねとか。

それならカツノリくんやケイちゃんは、アイちゃんを好きになるんじゃない?

ところが、そうでもないんだよね。カツノリくんはヨシカズくんと仲良しだから、友だちのことを悪くいうアイちゃんのことを、あまり好きじゃないみたい。ケイちゃんも同じ感じね。

まあ、自分の友だちを悪くいわれるのは、気分の良いものじゃないからね。アイちゃんは、その男の子たちを嫌いなのかい。

それが全然ちがうんだよ。たぶんアイちゃんには、嫌いな人なんていないんじゃないかな。いつも誰とでもニコニコしながら話しているからね。

つまり、アイちゃんは感情で話しているのではなくて、冷静に人の能力についてしゃべっているだけなんだね。

そう思う。でも、そういう話し方が、人によっては気に入らないこともあるみたい。人と人の関係って、なんだか難しいね。
理屈で考える、感情で考える
※真剣な顔をして話し込んでいるハヤモンとアイコさん、そこにライフくんと一緒にカホがニコニコ顔で学校から帰ってくる。

カホ:ただいま。

おかえり。おやおや、今日はえらくゴキゲンさんだね。

そりゃそうよ。今日もアイちゃんと一緒に帰ってきたんだから。

また、アイちゃんのかばんを持ってあげたのかな?

違うよ。今日はアイちゃんが、私のかばんも持ってくれたんだ。この間のお返しねっていいながら。やっぱりアイちゃんは、私のことを大事に思ってくれてるんだ。ところで、なにか難しそうな顔をして話していたけれど、何だったの?

脳科学で新しい発見があったんだ。ちょうどいい、ライフくんにたずねてみていいかな?

はい!どうぞ。

ではまず、ブレーキの壊れた誰も乗っていないトロッコが、急な坂をすごい勢いで転がっている様子を思い浮かべてほしいんだ。

レールの上を無人のトロッコが転がり落ちていくんだね。

そのトロッコには、砂がいっぱい積んである。そして少し先でレールは2つに分かれるんだ。

なんだか危なそうね。

もちろん危険だよ。そんなトロッコがぶつかってきたら、人はきっと死んでしまうだろう。ところがだ、2つに分かれたレールの先には人がいるんだよ。片方には1人、もう片方には5人の人が。

えぇ~、想像したくもないな。

トロッコをそのまま走らせていると、5人がいる方に突っ込んでしまう。でも、レールを切り替えて1人しかいない方にトロッコを進ませることもできる。そのとき「レールを切り替えて5人を助けるのは許されますか」と、いろいろな人に質問した結果が出ているんだ。ライフくんなら、どう答えるかな?

単純に考えれば、許されると思うけど。。

その答えは、この質問に答えた人たちの多くと同じだ。

5人が助かるのと、1人が助かるのなら、少しでも多くの人が助かるほうがいいよね。

では次の質問はどうかな。今度も同じようにトロッコが、すごい勢いで下っていて、その先にさっきと同じように5人がいる。ところが今度はレールの上に歩道橋があってね、そこに人が1人立っているの。そこで誰かがその人を歩道橋から突き落として、5人を助けるのは許されますか、というのが次の質問なの。

どちらも1人を犠牲にして5人を助けるのには代わりはない。違うのは、レールを切り替えるか、人を歩道橋から突き落とすかだ。

結果を考えれば同じだから、許されると思うけど。

やっぱりライフくんと地球の人では、考え方が少し違うようね。この質問への回答では、歩道橋から突き落とすのは許されない、と答える人が多かったんだ。そして、ここが大切なんだけれど、この2つの質問に答えてくれた人たちの脳の働きも一緒に調べたの。

すると、最初のレール切り替えを考えているときに、主に働いている脳の部分は前頭前野といって、合理的な思考をする部分だった。ところが、つぎの歩道橋問題を考えているときには、主に感情を担当する部分だった。つまり脳の中でも動いている場所が違い、その結果として答えも違ったということだ。

感情って、要するに気持ちということだよね。1人の人の脳の中でも、気持ちに関する部分と理屈を考える部分は違うってことなの?

そういうことになるね。

じゃあ、気持ちというか、こころは一体どこにあるんだろう?

・地球人の気持ちは、とても複雑なものらしい。
・「こころ」もどうやら脳の中にあるみたいだ。
ねえアイちゃん、私いつまでアイちゃんのカバンを持って歩けばいいの?