孫は野球が大好き
ほぉ~、何を学んだのかな。
タケGが、ご先祖様からいろいろ受け継いでいるように、私もお父さんとお母さんから、大切なものを受け継いでいるんだって。
サイエンスイ星でいう「いのちのメカニズム」だよね。
そうね。お父さんとお母さんからもらった遺伝子があって、それに基づいて、私は成長してきたんだ。でも、その遺伝子が私のこれからをすべて決めるわけでもないのよ。
そりゃそうだろう。私は空手をやっている、私の息子にも小さいころから空手を教えた。といっても無理やりやらせたわけではなくて、私が稽古しているところを見て、やってみたいといってきたからだ。
タケGが空手を始めたのは、いつ頃からなの?
20歳ぐらいからかな。
タケGのお父さんも空手の稽古をしていたの?
そんなことはない。私の父親は、カホちゃんのお父さんたちと同じような研究者だったよ。だから、暇があれば本を読んでいた。
ということは、タケGの遺伝子に「空手」は書き込まれていなかったんだ。
でも、タケGの息子さんはどうなんだろう。
そこはわからないな。息子が生まれたのは、私が空手を習い始めてからだから、もしかしたら、私の遺伝子も生まれたときとは変わっていたのかもしれない。でも、孫は空手じゃなくて、野球に夢中だよ。
野球は、私のクラスメートでも人気があるよね。
友だちが野球をやっていたら、きっと自分もやってみたくなるだろうな。やってみて面白かったら、続けるだろうね。
双子の宇宙飛行士はどうなった?
タケGには息子さんとお孫さんがいるんだって。そしてね、不思議なことに、息子さんは子ども時代に空手を習っていたけれど、お孫さんは野球をやっているの。
タケGから息子さんには、体を動かすのが好きという遺伝子が伝わったのかもしれないな。
そして、お孫さんにも同じ遺伝子が伝わっているのかもしれないね。
遺伝子の大切さはよくわかったんだ。そして、成長していく間に学んだり経験することによって、自分の新しい遺伝子ができていくというわけだよね。それがたぶん、私がもっと大きくなって、誰かと結婚して、子どもを産むと、その子に受け継がれていく。
そうだな。前に双子の話が出てきただろう。一卵性双生児は特に、子どもの間はそっくりだという、でも大人になっていく間にいろいろ違いも出てくる。そこで、違いが何によって生まれるのかを調べた結果があるんだ。
どんなことをしたのかな。食べ物を変えてみたとか?
アメリカで行われた研究でね、一卵性双生児のうちの1人を宇宙飛行士として宇宙に行ってもらったんだ。そして、もう1人は地球に残ってもらった。
どれぐらいの期間、宇宙に行ってたっけ?
宇宙ステーションの滞在日数が340日だった。
1年近くも宇宙にいたのね、それで何か変わったの?
たとえ話で説明すると、設計図そのものは変わっていないんだけれど、設計図のどこを使うのかを決めるスイッチが変わった。
宇宙ステーションの中は無重力だよね。地球上ではいつも重力がかかっていて、それに対抗するように骨がしっかりつくられるわけでしょう。ところが無重力空間の中にいると、骨がもろくなるって聞いたことがあるよ。
だから、骨をたくさんつくるようにスイッチが入っていたんだよ。ほかにもいろいろ違いができていたんだ。
双子の地球に残っていた人と宇宙に行った人を比べた結果だよね。地球と宇宙では環境が大きく違うんだろうけれど、1年ぐらいでいろいろ変わってしまうということか。ということは、まだ先の話になるけれど、私も例えば、どんな中学校や高校、あるいは大学に進むかによって、私の未来は変わっていくということなんだね。
変わっていくというよりも、変えることができるんだよ。カホがどうなりたいかによって。
努力と習慣で人生は変わる
私、これから先のことが、とても楽しみでワクワクしているの。
それはいいことだね。どうして、そう思うようになったのかな。
だって、私はまだ10歳でしょう。これから大きくなっていくときに、私の考え方や行動の仕方で、なりたい自分に近づけるんだよ。それってすっごく楽しみでしょう。
そうだね、その土台をつくってくれたのはハヤモンとユッキーというわけだ。子どもから大人になっていく過程は、自分がどんな大人になりたいかによって変わってくるから、とても大切な時期だね。そして、大人になってからでも、自分の考え方と行動でいろいろ変えられるんだよ。実は私もすごく変わったんだ、それも大人になってからだよ。
アツモンが? どんなふうに変わったの。
例えば体重だね。実は20代の終わり頃には90キロを超えていたんだ。
えぇ~っ、うそでしょう?だって、今のアツモンはとてもスラッとしているじゃない。
今は60キロぐらいだから、ざっと30キロぐらいやせたかな。
どうやったら、そんなにやせられるの?今もやせているというよりは、引き締まっている感じだけれど。
私の両親は太っていなかったから、食生活も含めてたぶん20代の頃の環境によって太ったんだろうね。
でも、30キロも体重を減らすのって大変だと思う。ご飯を食べないとか、そういえばアツモンは1日1食だったよね。
そうだね。それでも見ての通り、元気だろう。食べるものを変えたり、食べ方を変えることで、自分の体は変えていけるんだよ。無理してダイエットすると、リバウンドといってやせる前よりも体重が増えてしまうこともあるけれどね。
アツモンは研究者で、若いときにはアメリカにいたって聞いたよ。もしかしてお父さんやお母さんも大学の先生だったの?
それも違うね。しかも私も大学生の頃は、そんなに真面目に勉強していたわけじゃないからね。
でも、今は研究者なんでしょう?
そうだね。大学院に進んでからかな、研究者になりたいと思って必死に学ぶようになり、アメリカに挑戦しに行ったのも同じ理由からだよ。
アツモンもご両親や、おじいちゃんやおばあちゃんからいろいろ受け継いでいて、それでも自分の意思と努力で自分の道を切り開いてきた。だから、今があるということなんだね。
受け継がれるもの、切り開いていくもの
遺伝についていろいろ教えてもらって、受け継がれるものの大切さがよくわかった。それと同時に、自分の人生は、自分で考えて自分がなりたいように切り開いていくものだってこともわかったよ。
そうだね。自分の思いはとても大切だ。
ただ、思いだけではどうにもならないこともあるよ。僕たちの星なんか大変なことになってるけれど、サイエンスイ星を変えるのは、僕たちにもできない相談なんだ。
そうかあ、たしかにもしこれから地球に何かが起こるとしても、それを私1人で変えるなんてできない、でも1人では無理でも、みんなでやればできるんじゃない。
そのとおりよ。今問題になっている地球温暖化なども、私たちみんなが力を合わせていけば、きっと解決できるよ。
少し大げさかもしれないけれど、地球という環境は、人類が昔から受け継いできたものだろう。それをカホたち、次の世代だけじゃなくて、ずっと未来まで受け継いでいくのは、今を生きている我々の責任だと思うよ。
そう考えれば、これまで培ってきた文化を伝えていくのも大切だね。
サイエンスイ星でも、昔からのいろいろな決まりごとが受け継がれているよ。中でも重要なのは、争いを避けることだね。
設計図をもらって生まれてきて、でも、生まれてから、自分でいろいろ考えて変えていける。これって、もしかして人間の特長じゃないのかな。
そうだな。植物も人間以外の動物も、まわりの環境に合わせて設計図を変えていくことはできる。けれども、まわりの環境そのものを変える力を持っているのは、おそらく人間だけだろうね。
カホもこれから、どんなふうになりたいのか。自由に考えていいんだし、思うように生きていってくれると、何よりうれしいな。
・サイエンスイ星では、環境そのものを変えることはできそうにないけれど、地球の環境を地球の人たちは変えられる可能性があるようだ。
・やはり地球にいるたくさんの生き物の中で、人間は他の生き物とは違うということか。
タケGに昔の話をいろいろ教えてもらったでしょう。タケGの家系は、500年も前からつながっているとか、大事に守っている家訓があるとか。あの後でね、私もいろいろ教えてもらって勉強したの。