親子のつながりって一体何なの
「カエルの子はカエル」っていうでしょう。
そう、それは「遺伝」の話だね。
その遺伝について教えてほしいの。例えば私の顔は、お父さんに似ているところとお母さんに似ているところの両方がある。私が、お父さんとお母さんの子どもだからそうなるんだよね。それはわかるんだけど、もう少し詳しく知りたいというか、なぜそうなるのかを教えてほしいの。
なるほど。じゃあ聞くけれど、カホちゃんの血液型は何かな。
A型だよ。
ハヤモンは?
私はA型で、ユッキーも同じA型だ。
私のところは、私がA型、奥さんがB型、息子がAB型で娘はO型だよ。
えぇ~っ!同じ家族なのに、血液型はみんなバラバラじゃない。そんなことってあるの?
ところが科学的には、十分にあり得る現象なんだよね。ただ4人家族で4人がみんなばらばらになる確率は、それほど高くはないけれど。
もちろん息子と娘は、れっきとした私と奥さんの子どもだよ。だから血液型は違うけれども、姿かたちで似ているところはあるし、よく似た考え方をすることもある。これはある意味当然の話で、子どもには親がいろいろ教えるわけだからね。
ということは血液型は遺伝しない場合があっても、姿かたちや考え方は遺伝するということ?
それは違うな。アツモンの家族でも血液型はもちろん遺伝している、でも考え方が遺伝するとはいえないんだ。
兄弟は似ていて、双子はそっくり。大きくなるとどうなる?
血液型は違っても、遺伝はしているんだね。それってどういうことなんだろ。この謎はあとで教えてもらうとして、アツモンの子どもさんは血液型が違って、お兄ちゃんとお姉ちゃんだから性別も違う。ということは、もしかすると2人はまったく似てないの?
そんなことはなくて、似ているところもあるよ。それが同じ親から生まれた証拠といってもいいかもしれないね。例えば2人とも笑うときの顔はそっくりといってもいいぐらいに同じで、その笑顔はどうやら私に似ているらしい。一方で、2人の髪の毛は母親に似ていて、少しだけ赤みがかっていたりする。これも遺伝ということだ。不思議でしょう。
ほんとに、遺伝って一体どういうことなんだろう。
遺伝を少し専門的に説明するなら、親から子どもへと姿や形、性質などが伝わることだね。
じゃあ背の高さも、遺伝で決まってしまうのかな。
身長が100%遺伝で決まることはなくて、だいたい80%ぐらいが遺伝によるといわれてるの。性格は50%ぐらいかな。だから兄妹でも似ているところがあれば、違うところもあるのよ。もちろん大人になってから、子どものころとはガラッと性格の変わる人もいるしね。
私の学校の友だちに双子の兄妹がいるんだけれど、あの子たちの場合はどうなっているの?あの2人はとってもよく似ているよ。背の高さはもちろん、成績も好きな給食も何もかもそっくりといっていいぐらい。
あの子たちのことは、前にカホの先生に聞いたことがある。先生は一卵性双生児だといってた。
それならそっくりなのは当然だね。
どういうこと?
一卵性双生児とは、もともと1つの受精卵が分裂して双子になった人たちなんだ。だから遺伝子という、例えるなら人の設計図のようなものがまったく同じなんだよ。元が同じだから、生まれた双子は見た目はもちろん、性格も考え方も子どもの間はよく似ているんだ。
じゃあ、私のクラスの双子ちゃんたちは、同じように大きくなっていって、大人になってもそっくりなまま、ということ?
ところが、それほど単純じゃないんだよね。さっき性格については遺伝で決まるのが50%ぐらいと説明したでしょう。これは逆にいえば、性格の50%は遺伝では決まらないということだよ。
また謎が増えちゃったよ。血液型の謎に、遺伝では決まらない残りの50%の謎、遺伝って不思議でおもしろいね。
遺伝も大事だけど、育つ環境も大切
一卵性双生児についてはいろいろな研究があるけれど、その中に寿命を調べた研究があるの。
性格の50%は遺伝で決まる、それなら寿命はどうなるのかってこと?
もし寿命も遺伝子で決まってしまうのなら、双子の寿命は同じになるはずだよね。
それはきっと違うのだろうな。だって、子どもの間は同じ家で育ったり、同じ学校に通うんだから、同じように育つと思うけど、大きくなったらいろいろ違ってくるでしょう。もしかしたら、大学は別々かもしれないし、そうなったら双子のうちのどちらかは1人暮らしするかもしれないし。
そうだね、そうやって生きていく環境が変わると、当然、環境からいろいろな影響を受ける。たとえば1人暮らしする場合と、両親と一緒に暮らす場合では、何が1番大きく変わるかな。
たぶん食べものじゃないかな。お家にいれば、お母さんが食事を用意してくれるけれど、1人暮らしをしたら自分でつくったり、あるいは外で食べたりしないといけないよね。
人の体は何でできていたっけ?
それは前に教えてくれたよね、体は食べたものでつくられるんだって。
だから、一卵性双生児でも20歳ぐらいから食べるものが違って、そのまま60歳ぐらいになったと考えてみようよ。きっと食べたものによって受ける影響は大きく変わるよね。
食べたものはもちろんだけれど、健康に気を配っていたかどうかも当然、影響してくるだろうね。例えば普段から運動をしていたとか、あるいは毎日早寝早起きをしていたか、そんな日頃の習慣も影響するはずだよ。
そうかあ。ほかにも大人になってから付き合うようになる人たちからも、いろいろ影響されるよね。読んだ本とか見た映画、聞いた音楽、あるいは住んでいるところや働いている職場など、いろんなことから影響されるんだ。
要するに人は、自分が置かれている環境によっていろいろ影響を受けるってことだよ。アメリカに留学に行っていたときには、それはもう日本とはまったく違う環境だし、考え方も違う人がたくさんいたからね、すごく影響されたよ。
とはいっても、ただ影響を受けるだけじゃないんだよ。自分の力で、自分のまわりの環境を変えることもできる。つまり、自分の未来は、自分でつくっていけるんだ。
遺伝子は人の設計図
遺伝の話から血液型の謎が生まれて、さっき遺伝子が設計図だって教えてくれたでしょう?例えば家の設計図には、どんな家をつくるのかが描かれているよね。ということは、人の遺伝子とは、どんな人をつくるのかが描かれた設計図ということなのかな?
そうだね。カホちゃんの家は2階建てで、1階の真ん中にいま私たちがいるリビングがあるでしょう。隣にはダイニングキッチンがあって、カホちゃんの部屋は2階の南側だったかな。
そのとおりだ、よく知っているね。
ただしカホの部屋は、カホが大きくなったらもっと広げられるようにしてあるし、1階の間取りもいろいろ変えられるように考えてある。
それは何年か経ったとき、その時点で暮らしやすいように家の中を変えるということなんだね。ということは、もしかして人の設計図の遺伝子も、年をとっていくと変わる可能性があるということなのかな?
そのとおりなんだ。遺伝子はたしかに設計図だけれど、生まれたときの設計図のままでずっと生きていくわけじゃない。しかも、人の設計図はとても複雑でね。これも家に例えるなら、どこかに隠し部屋が描かれていたりすることもあるんだよ。
隠し部屋ってどういうことだろ。
今は必要がないから入口のドアを壁に埋め込んで見えなくしてあるけれど、いつか必要なときが来たら、そのドアを使えるようにするんだ。
もしかして、この家には既に隠し部屋が用意されているとか。
老後の楽しみのための趣味の部屋みたいなものが、実はつくってあるんだけど。
そんな話、初めて聞いたよ。でも、お父さんとお母さんにつくってもらった設計図があって、それを元に私は育っていて、でも、ある程度大きくなったら、自分で自分の未来をつくっていけるって、とっても素敵なことだよね。
・地球人は、遺伝子という命の設計図を親から受け継ぐようだ
・ただし、設計図は受け取っても、自分の意志で未来を変えていけるらしい
私に聞きたいことがあるからって呼ばれたんだけれど、カホちゃんの質問は何かな?