時計になるネコの眼
そりゃそうだろう。眼のカタチ、大きさ、ついている位置も人と犬ではまったく違うからな。
色の見え方も違うらしいね。
犬にとっての世界は、人間ほどカラフルに色がついて見えているわけじゃないようだね。もっとも、私も犬になって世界を見たことはないから確かなことはいえないけれどね。眼といえば、カホちゃん、こんな歌があるんだけど知ってるかな。
眼の歌っていうこと?
そうだよ。「六つ丸く、五七たまごに、四つ八つは柿の実で、九つは針」
なにそれ、さっぱり意味がわからないけれど。
江戸時代は今のような時計がなかっただろう。だから時間を大まかに知るためにネコの眼を利用していたらしい。ネコが丸い眼をしていたら午前と午後の6時ぐらいで、タマゴのような形なら午前8時と午後4時ぐらいといった感じだな。要するに太陽の光の具合によって、ネコの眼は形、正確には瞳孔が変わるんだ。
どういうことだろ?
カホちゃんも眼の形が変わることはないかな?
あんまりないと思うけれど…。
びっくりしたとき、どんな眼になる?
眼をパチクリさせる、とかいわせたいの。おもしろいね、タケGって。
眼がなくても生きていく
ドクターケイ、ちょうど良いところに来てくれた。昔の人は、ネコの眼を時計代わりに使っていたんだよ、知ってた?
そんな話を聞いたことはあるな。仮にそうだとして、ネコはどうして光の具合で眼の形を変えるのか。そもそも眼は何のためについているのか、わかるかな。
それはものを見るためでしょう?
逆に考えれば、眼が見えなかったらどうなる?
そんなこと、想像したこともなかった。でも、世の中には眼の不自由な人もいるよね。眼が見えなかったら不便だろうなあ。きっと歩くだけでもこわいだろうなあ。
だから眼の不自由な人のために、いろいろな工夫がしてあるんじゃないか。横断歩道で歩行者信号が青色のときに音が鳴るのは、その典型だよ。
そうかあ、点字ブロックというのもあるね。
動物たちのなかには、眼のない生き物もいるぞ。
そういえばモグラさんは眼が見えないんじゃなかったかな。
正確には退化していて、小さな黒点がついているだけだ。光をほとんど感じることができないから、眼は見えていないといっていいだろう。
大昔、正確にはカンブリア紀、つまり今から5億4000万年前から4億9000年前ぐらい前の時代だけれど、それ以前の生き物にはそもそも眼がなかったらしい。
眼の誕生が、カンブリア紀に生物の大進化をもたらしたといわれている。
大昔の生き物には眼がなかったのか。すごく不自由だったんだろうな。
眼がなかったら、いろいろ困るよな。
ためしに1日ずっと目隠ししてみたら、なにに困るかわかるよね。ちょっとまってね、想像してみるから。朝起きて、まずベッドから降りられないよ。トイレにも1人では行けないし、ご飯も食べられない。もちろん学校にも行けない。え~っ、めちゃくちゃ不自由だな。
大昔の動物も同じだ。眼が見えなければ、生きていくために大切な2つのことに不自由することになる。食べること、身を守ることだ。だから眼の誕生によって生物は大きく進化したわけだ。少し大げさかもしれないけれど、野に咲く花がきれいな色を持つようになったのも、虫たちに見てもらうためだと考えられる。今のような世界、色がついてきれいな世界ができたのは、生命が眼を持つようになったからだと考えられるんだ。
食べものを手に入れ、身を守る
ちょっと待って。じゃあモグラさんは、どうやって生きているの?モグラさんだって、何かを食べないと生きていけないよね。
「食べる」ことの大切さは、前回話したね。
覚えているよ。だからモグラさんも何かを食べなきゃならないよね。でも暮らしているのが土の中だから、食べものはどうしてるんだろう?
モグラは主に昆虫類を食べている。土の中にいる昆虫だから、ミミズやムカデ、カブトムシの幼虫なんかも食べる。しかも、たくさん食べるようだ。
目が見えなくても食べものはわかるんだね。どこに食べものがあるのか、どうやって知るのかな。
カホだって目をつむっていても、おいしい食べ物が出てきたらわかるんじゃないか?
そうか!ニオイだね。私にはミミズさんとムカデさんのニオイの違いはわからないけれど、きっとモグラさんにはわかるんだ。
あれ?でもモグラさんが何を食べているのかは、どうしてわかったの?モグラさんは土の中で暮らしているのだから、モグラさんが何かを食べているところなんて、誰も見たことがないんじゃないのかな?
なかなか鋭い質問だな。世の中にはモグラの研究者がいて、彼らはモグラの食べているものを胃の中身を分析して調べているんだ。
暗いところで暮らす生き物といえば、コウモリもそうだけれど、彼らもすごい力を持っているよ。
コウモリってたしか洞窟の中にいるんだよね、それもたくさん群れになって暮らしているって聞いたことがあるよ。でも洞窟の中は、灯りなんかないから暗いでしょう。そんなところにたくさんいて、みんなが飛び回っていたらぶつかるじゃない。
ところがコウモリは仲間同士でぶつかったりしない。彼らは超音波を使うんだ。
チョウオンパ?
簡単にいえば、人間の耳には聞こえない音のこと。そんな音を出すと、特に洞窟の中のような狭い場所だと、出した音がはね返ってくるだろう。その音を聞き取って、自分と壁との距離やまわりにいる仲間の位置などを確かめながら動いているんだ。
でも、まわりにたくさん他のコウモリがいて、みんなが超音波を出していたら、何がなんだかわからなくなってしまいそう。
そこがコウモリのすごいところで、仲間と自分の出す超音波は微妙に違う。専門的にいえば音の周波数が違うから、自分が出した超音波と仲間の超音波をちゃんと聞き分けられる。だからたくさん群れになっていても、お互いにぶつかったりしないんだ。
生き残るために欠かせない感覚
モグラさんにしても、コウモリにしても生き物ってすごいね。というか、すごい力を持っているから、生きているってことか。
この間アイコさんがいってただろ、食べものを見極めるために味わってみたり、彼女はちょっと変わっているから触ってみたりもするって。
要するに五感だよね、眼で見る視覚、耳で聞く聴覚、鼻で感じる嗅覚、口に入れて確かめる味覚、そして触ってわかる触覚。改めて人ってすごいなあと思う。
触覚については痛みや熱についての感覚もあり、これらは皮膚感覚といわれる。もう1つ骨格筋や関節などで感じる固有感覚があり、これらを合わせて体性感覚というんだ。
また、ドクターケイがややこしいこといい始めたよ。何なの、その体性感覚って。
ちょっと実験してみればわかる。カホちゃん、片足で立ってごらん。
そんなの簡単だよ。ほら。
それで少しだけ体を前後左右のどちらでもいいから、傾けてみて。
それも簡単と思ったら、オットット、ちょっとやばいかも。
そのバランスだよ。例えば階段を上がるときのことを思い出してみよう。家の階段なら慣れているから、いちいち段を見て高さを確認したりしないだろう。
そうね。
体を動かすときの筋や関節の状態は、固有感覚器で捉えられて脳に伝えられる。その情報を元に、脳は体の動きを調節する。だから階段につまずいたりせずに上がれる。
いわれてみれば体育で跳び箱をとぶときも、高さがどれぐらいだとかいちいち考えたりしていないな。それでも、よほど高ければ無理だけれど、普通に飛べるね。
ほとんど考えることなく体を動かせること、それでいてバランスをくずさないこと、どちらも不思議だと思わないか?
いわれてみれば、そうかもしれない。
人が普段意識することはまずないけれど、人は地球から重力を受けている。重力とは、地球に向けて人を引っ張る力だと思えばいい。その証拠に少し高いところから飛び降りるのは楽だけれど、そこに飛び上がろうとすると大変だったりしないか?
確かに。同じ高さでも降りるのと上がるのでは、しんどさがかなり違う。あれっ!どういうことなんだろう?
それが重力の仕業だよ。地球の上に生きている生き物、生き物以外の物、すべては地球の重力によって引っ張られている。その重力とうまくバランスを取れるから、思うように体を動かせるんだ。
そのバランスを取るときに使っている感覚が、体性感覚っていうことなのね。人というか生き物には五感があって、さらに体性感覚もあって、いろいろ感じているから生きていられるのか。なんか、すごいなあ、生き物って。私、生き物でよかったよ。
・地球人は、五感があるから生きていられるらしい
・生き物のなかには、五感すべてが揃っていなくても生きているものがある
・五感というけれど、体性感覚というのも大切らしい。
この間、みんなで話していて、びっくりしたことがあったの。ワンコと私たち人間では、同じ景色を見ていても、見え方が違っているんだって。