肥満率が3倍になったアメリカ
当たり前じゃない。
そうよね。じゃ次の質問なんだけど、ライフくんは別として、地球上にいるのはみんな同じ人間だよね?
髪の毛や目そして肌の色などは違うし、話す言葉も違う。けれども生物学的な分類でいえば、同じ人間であることは間違いないよ。
同じ人間なのに、どうして体つきは全然違うのかな? 例えば海外の人たちってでかい人が多いような気がするんだけれど……。特にお腹のまわりやお尻なんて、パパやママの何倍もありそうじゃない。
今は確かにそうだけれど、昔は例えばアメリカ人も今ほど太っていなかったらしいよ。ところが2017年の論文によれば、アメリカでは成人の37%がBMIでいう肥満に相当していて、2030年にはアメリカ国民の半分が肥満になるとの予測もあるらしい(※1)。アメリカに出張に行っていたときの印象だけど、子どもも肥満ぎみの子は日本より多いように思ったよ。ただ、最近は日本人でも太り気味の人がかなり増えているようだけれどね。
どうして、そんなに違うの?そういえばパパも長い間アメリカへ行って、日本に帰ってきたときは太ってたよね。
カホは、何が違うと思う?この間、アイコさんとお相撲さんの話をしたじゃない。覚えていないかな?
そっかぁ!違うのは食べものだ。もしかすると食べ方も違うのかな。当たり前だけれど、食べたもので体が作られるのだから、食べものや食べ方が違えば結果も変わってくる、というわけね。
※1:The Messy Truth about Weight Loss/(SCIENTIFIC AMERICAN June 2017/日経サイエンス2017年12月号)
コーラと枝豆、どっちが太りやすい
世界の人たちのごはんを比べてみた写真があるよ。
アメリカっていいなあ、ハンバーガーとピザ、ケーキにポテトにジュースまである。うちの朝ごはんなんか、まさにこんな感じね。お魚と野菜とおみそ汁ばかりで、毎日ほとんど代り映えしないし。
だからこそカホは元気だし、太ってもいないんじゃないの。栄養のバランスをきちんと考えてつくられたメニューだよ、これは。
でもさあ、太るとか太らないって、何を食べるのかじゃなくて、基本的にはカロリーの問題だって聞いたことがあるよ。
それは良い疑問だね。例えば、同じ1000カロリーの枝豆と甘いジュースなら、太る効果はどっちも同じだと思わないかい?
アツモンがわざわざ、そんな尋ね方をするということは、きっと違うのね。そして、その違いは和食とアメリカの食事の効果の違いにもつながっている……?
その通り。少し難しいかもしれないけれど、1つ大事なポイントは糖質の吸収と代謝なんだ。糖質って、早い話がお砂糖のことだよ。ジュースに含まれている糖質は、液体だから吸収も早くてすぐに血中に入っていく。けれども枝豆は、糖質と同じくらいタンパク質や脂質も含んでるんだ。ジュースと同じカロリーでも糖質が少ないんだよ。噛んで食べて胃の中で分解して小腸までたどり着いて、ようやく糖質も含む成分が吸収されていく。ジュースと比べれば時間がかかるよね。糖質がエネルギーとして使われるのは、カホちゃんも知ってるだろう。
たしか糖質とタンパク質と脂質が大事だって、お母さんに聞いたことがあるよ。
ジュースの糖質はすぐに吸収されるけれど、だからといってすぐに使われるわけじゃない。そしてね、糖質はインシュリンってホルモンを出す力があるんだよ。タンパク質や脂質よりもたくさん。インシュリンが体に伝わると、糖質をとりこんで脂肪にかえて蓄えるようになるんだ。
脂肪が増える、つまり太るってこと?
枝豆には糖質が少ないし、じわじわ吸収されるから時間がかかる。インシュリンをあまり出さないんだ。そして、じわじわ吸収される間に体を動かしたりすれば、エネルギー源として使われるから、あまり脂肪にはならない。
体のメカニズムって不思議というか、よくできてるのね。
体に良い、体に必要な食べものって
食べものでもう1つ注意したいのがトランス脂肪酸、特にこれを多く含んでいる部分水素添加油脂などだね。
なんか難しそうな言葉が出てきた。トランス脂肪酸って何なの?
人工的につくられた油でマーガリンやクッキー、ドーナッツなどによく使われる材料の一つだよ。
マーガリン。うちではあまり食べたことないかも。
トランス脂肪酸が体に良くないという研究もあるからね。うちでは少し控えるようにしているのよ。
そうなんだ。カホはクッキー、ドーナッツ大好きだけど……。でも食べものなのに、体に悪いものなんてあるの?
食べる量と、食べた物によるんだよ。例えば、トランス脂肪酸をとりすぎると善玉コレステロールが減るし、動脈硬化などで心臓病のリスクも高まるんだ。だから摂取量を抑えるようにとWHO(世界保健機関)がわざわざ勧告を出している。クッキーやドーナッツも、作られている油の種類やお砂糖の量などで変わってくるよ。
そうなんだね。じゃあカホの好きなハンバーガーやジュース、ケーキも食べすぎると、太るだけじゃなくて、体に良くない可能性もあるわけね。なんだか食べものって結構むずかしいね。むずかしいというか、奥が深いというか。一体何を、どう食べたらいいんだろ。食べるものをまちがうと体に悪そうだし。
そのとおり、いいところに気がついたな。ただ、うちのご飯は安心して食べて大丈夫だ。カホが生まれる前に、おかあさんと一緒に食べものついてしっかり勉強したからね。
カホに1つ、安全な食べ物の見分け方を教えてあげるね。それは「この食べものは、100年前の人も食べてただろうか」と考えてみるの。人工的につくられたものが全部ダメってわけじゃないけれど、新しくできたものにはまだわからないこともあるの。昔むかしから、食べてきたものは、その点安全なのよ。
昔は冷蔵庫もなかったからね。野菜でも魚でも、新鮮なうちに食べることが多かったんだ。そして長期保存するためには、自然の力をつかっていたんだよ。
新鮮な食べものは、体にいいよね。昔の人たちの知恵が生かされている食品はたくさんあるけれど、納豆やヨーグルトなどの発酵食品は、ほんとすごいよ。微生物が糖質を分解して、人間にはつくれない体にいい物質をたくさん作ってくれるんだから。
食べるものを考えるときに、体の成分を意識するといい。体は、水分が60%、タンパク質が20%、脂肪が15%で、残りがその他だから、要はその成分になるものを食べればよいわけだ。
三大栄養素のことだよね。糖質とタンパク質、そして脂質。
あとはビタミンとミネラルかな。
必須アミノ酸は、本当に必須か?
糖質はさっきのジュースと枝豆の話に出てきたけど、エネルギーになるんだよね。だから使うエネルギー以上に糖質をとると太ってしまう。タンパク質は、確かアミノ酸になるんだよね。そしてややこしい話だけれど、アミノ酸からたんぱく質が作られるって話でしょう。そのときに必須アミノ酸がどうとかって聞いたことがあるよ。
アミノ酸は大きく分けて2種類ある。体内で作ることのできるアミノ酸と、作ることのできない必須アミノ酸だ。体内で作ることはできないけれども、人が生きていくためにアミノ酸は欠かせない。となると食べものとして取り込むしかない。いわゆる必須アミノ酸とよばれるのが、このタイプだね。
ところがだ。必須アミノ酸は、本当に必須なのかという疑問もあるんだよ。最近の代謝研究では、これまで人間では作れないといわれていたバリン、イソロイシン、ロイシンっていうアミノ酸が、特定の状況になったときに作られるという報告もある。
ポイントは空腹、つまりお腹が空いていることかもしれないね。人間の体は本当によくできていて、足りないものがあると何とか作り出そうとする。そして、これも最近の研究で明らかになったんだけれど、食べすぎないこと、つまりカロリーを制限すると、どうやら長生きできるんだ。もっとも、今のところはマウスの実験で確かめられただけだけれどね。
・地球人は住んでいる国によって体型が違うらしい
・太る太らないのカギは、糖質にある
・地球人は、体に悪いものも食べているようだ
・食べものについての考え方は、まだ不確定なところがある
ちょっと変なこと聞くんだけど、私は日本人だよね?