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人が生きていくためには、呼吸すなわち「息する」ことが欠かせません。
カホちゃんのギモンシリーズでは、呼吸の基本的なメカニズムから始まり、
体の中で起こっている現象について深めていきます。
こちらのカガクマスターシリーズでは、
酸素の起源や細胞内で重要な役割を果たしているミトコンドリア、
諸刃の剣ともなりかねない酸素の2面性などについて、
定説に加えて最新の知見なども踏まえてご紹介します。

実は恐ろしい力も秘めている酸素

地球に酸素があるおかげで、多くの生き物が生きていける。けれども、地球ができたときから、酸素があったわけではなく、酸素ができたために死んでいった生き物もあります。では、一体酸素は私たちの体の中で、どんな働きをしているのでしょうか。ミトコンドリアでエネルギーがつくられるプロセスでは、酸素が重要な役割を果たしています。一方で「酸化ストレス」という言葉もあります。そもそも酸化とは、鉄などの金属がさびてしまう現象でもあります。もしかすると、人も酸素のせいで「さびる」ことがあるのでしょうか。カホ、ハヤモン、アツモン、ドクターケイの議論が続きます。

 

鉄がさびるって、どういうこと

 

前にドクターケイが、酸素は猛毒のガスだといってたでしょう。酸素がないと、人間は生きていけないはずなのに、その酸素が毒ガスにもなるというのが、よくわかんない。

カガクマスターシリーズ 息をする 第1話 参照)

たとえば鉄でできたクギを、そのへんに放り出しておくとどうなるか知ってるかな?

クギの実験なら理科の授業でやったことあるよ。ケチャップと塩水、お酢なんかにクギをつけて、どれが一番さびるか試してみた。

で、どうなったの?

ケチャップに入れたクギが、いちばんさびたよ。お酢につけたクギもさびるんだけれど、お酢の成分がさびを溶かしてしまうって、先生がいってた。

そもそも「さびる」ってどういう意味なのかも、おしえてもらったはずじゃない…

たしか先生は「酸化」とかいったてたよ。
そうそうクギに限らず、空気中に金属をおいておくとさびる、それは酸化だって。

では、さびてきたクギをそのまま放っておくとどうなるだろう?

そんなに長い時間をかけて実験したわけじゃないからなあ…。あっ!でも理科室のすみっこに落ちていたクギは、赤くさびてぼろぼろになってたよ。さびるって、もしかしてぼろぼろになるってこと?

 

ハヤモンの心の中にわいた疑問

鉄がさびると赤くなる。でも、さびた銅は確か青くなるはず。なぜ、色が違うんだ?

 

酸化のメカニズム

 

辞書には「酸化とは、ある物質が酸素と化合すること」と書いてある。小学校ではまだ習わない話だけれど、おもしろいぞ。そもそもなぜ、クギつまり鉄が酸化されてさびるのか。わかりやすくいえば、鉄は酸素と、また酸素は鉄とくっつく方が居心地がいいからなんだ。

居心地がいいというのはものの例えで、サイエンス的には安定しているというね。もちろん酸化は鉄と酸素の間でだけ起こるわけじゃない。ほかにもいろいろな物質と酸素が結合して酸化が起こる。

じゃあもしかして、銅と酸素がくっつけば酸化銅ができるの?

やっぱり、この子はカンが鋭いね。
酸化の実験をやったのなら、きっと酸素とか水素についても習ったでしょう。水素と酸素から何ができるのだったかな?

それは水じゃない?あれ…?水素と酸素がくっつく、つまり水素が酸化されると水になる…。それってどういうこと?

炭素と酸素がくっついたら、何ができる?

それは二酸化炭素だよね。ちょっと待って二「酸化」炭素って、酸化って書くぐらいだから、炭素が酸化されるってことなの?

しっかり話についてくるな。じゃあ、もう少しレベルを上げてみよう。

 

ハヤモンの心の中にわいた疑問

“地球の酸素は、大気中に21%含まれている。もし、酸素が30%ぐらい含まれていたら、どうなるんだ?そこら中でめちゃくちゃ酸化が起こるんじゃないのか?”

 

電子に注目すると見えてくること

 

ここから先の話には化学式が出てくるからね、もう少し難しくなるけれど、がんばってついておいで。例えば先ほど出てきた酸化銅ができる反応は、次のように書くんだ。ちなみに、こういう式を化学反応式という。
2Cu+O2→2CuO
では、なぜこのような反応が起こるのか。ここで出てくるのが電子(e)だ。ここからは高校の化学の内容だな。
酸化銅ができるプロセスでは、銅が電子を放出し、その放出された電子を酸素が受け取っている。
電子の動きに注目すると次のように表せる。
Cu→Cu2++2e
O2++2e→O

よくわかんないけど、要するに銅と酸素が電子をキャッチボールしてるってことじゃないの?
銅が電子を2つ放り出して、その放り出された電子を酸素が受け取る。

そのとおりだよ。銅は電子を失い、つまり酸化されて、酸化銅になる。一方の酸素は、電子を受け取って銅とくっつく。
このように電子を受け取ることを「還元」というんだ。

じゃあ、酸化と還元は必ずセットで起こるわけね。そして、電子を出すのが酸化で、電子を受け取るのが還元でしょ。

なんかついてくるなあ。

そして体の中でも、酸化と還元が起こってるといったら、どういうことかわかるかい?

ビタミンCの発見者、量子力学を生化学に応用する分子下生物学、今の量子生物学を提要したハンガリー人か。

※出典:https://profiles.nlm.nih.gov/spotlight/wg/feature/biographical-overview

量子生物学について

 

さっきの酸化銅の説明のときに、ドクターケイは電子を「e」って書いたよね。もしかして「e」はエネルギーと何か関係があるの?

電子のeはelectronの頭文字からきていて、energyではない。けれども電子がエネルギーに関係しているのは間違いない。先ほどのセント=ジェルジ・アルベルトの言葉は、生命現象の本質を表している。つまり生き物が生きていくためにはエネルギーが必要で、そのエネルギーは電子の動きによってもたらされている。

 

危険な酸化ストレス

 

体の中でも電子が動いているんだよね?
そして電子を失うのが酸化だったよね。じゃあ、酸化銅ができるときには、銅が酸化された。ということは銅は電子、つまりエネルギーを奪われたということなの?

そのとおりだよ。そうした電子の流れによって人はもちろん、すべての生き物はエネルギーを得ているんだ。

電子が流れるということは、酸化が起こってるわけでしょう。そして酸化って、何かがさびることでもあったよね?

もう1度おさらいしておくと、人は酸素を吸って生きている。体の中に取り込まれた酸素は、細胞の中のミトコンドリアで燃料となり、エネルギーをつくり出している。そのエネルギーはATP、アデノシン三リン酸と呼ばれる。ただし、酸素は体内で細胞をさびさせることもある。なぜなら酸化力があるからだ。

活性酸素って、聞いたことないかな。ママがときどき「酸化ストレスが〜」とか「活性酸素が〜」とかぼやいているのを覚えているだろう。

それ!たしかお肌がぼろぼろになっちゃうとか言ってたような。

※出典:

https://pixta.jp/tags/%E6%B4%BB%E6%80%A7%E9%85%B8%E7%B4%A0?search_type=2

 

酸化ストレスは、正確にはお肌のような体の表面でよりも、体の中で起きることが多い。酸素のなかでも反応性の高いものを活性酸素と呼ぶ。ただし、活性酸素は単に悪者というわけではない。体の中に細菌やウイルスなどが侵入してきたときには、そいつらをやっつけてくれる。

体を守ってくれるわけね。

体って、というか体の中の細胞って、めちゃくちゃうまく考えられているんだね。

酸化ストレスを引き起こさないために、ママは何してる?

そうか!食べるものにとても気を使っていて、バランスの良い食事とか、運動もやりなさいとか、夜は早く寝なさいって、よくいってるよね。あれって、もしかして酸化ストレスを起こさないために大切なことなの?
ということは、タケGにも教えてあげなきゃ。

 

ハヤモンの心の中にわいた疑問

酸化ストレスを完全に抑え込めたら、一体どうなるのだろう?

 

用語集

量子生物学

生命現象を量子力学的原理に基づいて解釈していく学問。量子力学とは、素粒子、とくに電子の挙動を扱う学問であるから、別な言葉でいえば、生物現象を電子レベルで理解する学問が量子生物学であるともいえる。

出典:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/11/6/11_6_396/_pdf/-char/ja

カガクマスター シリーズ