もう走れない


今日ね、学校から帰ってくるとき、あの人がいたよ。
ほら、NOMON研究所の所長さん、ドクターケイさんだったっけ。

あの人、ちょっと変わってるけど実はすっごい人なんだよ。

確かに変わってるよね。だって道ばたにしゃがみこんでて「乳酸がぁ、乳酸がたまっちまったぁ、もう動けねえ」とか言ってるの。なんなの乳酸って、ヨーグルトでも食べ過ぎたのかしら。

もしかしてジョギングの格好をしてなかった?

そうそう、それで肩を揺らして、ぜいぜい苦しそうに息してた。

やっぱりね。ケイさんは走るのが趣味なんだけど、普通に走るだけではつまらないんだって。だから、いきなりダッシュし始めて「もうだめだ、これ以上がんばったら体がおかしくなる」っていうレベルまで、自分で自分を追い込むんだ。

なにそれ。ちょっと変わった人なの?

そういうことをするのが好きな人がいるのよ。

ふ~ん、なんだかよくわかんない。

それより「乳酸がたまる」ってどういうことかな?

この間さ、肺から入ってきた酸素が、ヘモグロビンというボートのようなものに乗せられて、体のあちこちに運ばれるという話をしたよね。

それは覚えてるよ。

じゃあさ、ヘモグロビンの行き先はどこなんだろう?
こう言い換えてもいいかな、体の中に運ばれた酸素は、どこでどうなるのだろう?

体はどうやって動く

きっと乳酸も何か関係あるんだね。酸素と乳酸、どっちも「酸」がついてるもんね。

人の体って、細かく見ていくと何でできているのかな?

え~っと、何だっけ。
どこかで聞いたような気がするけど。

サイボウ(細胞)って聞いたことない?

それ!理科の実験でタマネギの細胞を見たことがある。えっ、でもちょっと待って。タマネギは植物でしょう、人間は動物だから玉ねぎとは一緒じゃないよね?

 

(ここでドクターケイ登場)

 

ハヤモン、君の家ではなかなかおもしろそうな話をしてるじゃないか。ここは私の得意分野だから、ちょっと話に入れてくれないか。

もちろんですよ、ぜひ、カホに細胞について説明してやってください。

カホちゃん、さっきは変なところを見られちゃったね。道ばたでしゃがみこんでしまってたのは、体を動かせなくなったからなんだけど、正確に言うと、私の体の細胞に乳酸が溜まってしまい動けなくなったんだ。

人の体にも細胞があるの?

あるどころじゃないよ。人の体はだいたい37兆個の細胞でできているんだ。

37兆個の細胞でできてるの!?

兆って億の上の単位でしょう?ちょっと想像もつかないんですけど。

 

まあ、めちゃくちゃたくさんの細胞からできてる、ぐらいでいいよ。それより大切なのは、ひとつひとつの細胞が協力し合うから人は生きていられるってこと。ほら、こうやって手を動かすのも、細胞たちのおかげなんだよ。

じゃあドクターケイは、さっきどうして動けなくなってたの?

どうしてだと思う?たとえばカホちゃんの家にもクルマがあるでしょう。あのクルマはどうやって動くのかな。

それはエンジンがあるからでしょう。

エンジンがあれば、それだけで動くかな、ほかにも何か必要じゃない?

あっ、そうか!ガソリンを入れるんだ。ガソリンをエンジンで燃やして走る力に変えるんだ。

じゃあ、人の体はどうやって動くんだろう?

体を動かす力のもとは

ガソリンみたいなものを燃やすの?

なかなか勘が鋭いね。人の体は小さな細胞が集まってできている。その1つひとつの細胞を動かすためにも、エネルギーが必要なんだ。

エネルギー?

ものを動かす力ぐらいに思ってくれたらいいよ。クルマのエンジンではガソリンを燃やしてエネルギーをつくっているんだ。

じゃあ、体の細胞の中でも何かを燃やしてエネルギーをつくっているの?

肺から取り入れて、血液で体中に運んでいるのは何だった?

酸素だ!もしかして、人を動かすエネルギーは酸素なの?あっ!
何かを燃やしているときに息を吹きかけると、火の勢いが強くなるよね。それと関係してる?

そうだな、吹きかける息の中には酸素が入っているね。酸素のほかにも毎日体の中に取り込んでいるものはないかな?

ご飯を食べるよ。お昼ごはんをしっかり食べないと、お腹がすいて放課後に遊べなくなるもん。

わかったんじゃない?

そうか、酸素と食べたものがエネルギーになるんだ。

 

細胞の中で起こっていること

でも、ちょっと待ってね。食べたものは胃から腸に送られて消化されるんだよね。

消化ってどういうことかな?

細かくするわけでしょう。

どれぐらい細かくするんだろう?

それは聞いたことがないなあ。

少し考えてみようか。酸素が細胞に運ばれてエネルギーになるわけでしょう。じゃあ、食べたものも細胞に運ばれてエネルギーになるとしたら、どうなる?

そうか。細胞に入るぐらいに小さくすればいいんだ。私の体に37兆個も細胞があるのなら、1つの細胞ってめちゃくちゃ小さいわけね。

人の細胞は、直径が10μmから30μm(0.01mm~0.03mm)ぐらいなんだ。

なんだかもう、想像もつかない世界だわ。でも、そんなに小さな細胞たちがきちんと役目を果たしてくれているから、私は動けるのね。そしてさっきのドクターケイみたいに、動けなくなったりもするんだ。動くためにはエネルギーが必要で、そのエネルギーには酸素と食べたものが関係してる。それも食べたものなんかも何とかミクロンぐらいまで細かく細かくなって細胞の中に入ってくる。
むりやり想像しようとすると、頭がクラクラしてきそう。

・地球人は呼吸をして生きている
・人間の体は、37兆個の細胞からできている
・ひとつひとつの細胞は、ものすごく小さい
・細胞は酸素を使って体を動かすエネルギーをつくっている

 

カホちゃんのギモン シリーズ