呼吸を整える

パパ、パパ(小さな声で)、ちょっと来て。

どうしたぁ?

ほら、見て。タケGの庭に、変なおじさんがいるでしょ。あの人、さっきから左手を前に突き出し、右手を後ろに引いて、すごくゆっくり息してるの。まるで息してないみたいにも見えるんだけど、一体何やってんだろ。

あの人はアツモンじゃないか。パパの大学の先輩だよ。あれは弓を引く動作で、矢を放つ前にいったん体の動きをとめるんだ。弓道の稽古をしてるんだよ。

 

おう! ハヤモンじゃないか。オッス。

おはようございます。相変わらず朝は稽古ですか。

そうだね。朝イチに稽古をして、しっかり呼吸を整えておかないと1日がうまくまわらないからな。

 

部屋に戻ったカホとハヤモン

あの人、アツモン先輩、変なこと言ってたね。呼吸を整えるとかなんとか。呼吸って意識して整えるようなものじゃなくって、誰でも自然にしてるじゃない。

そういうけど、本当に呼吸はいつも自然にしてるのかな。前にさ、息を止めてどれぐらいがまんできるか試したり、思いっきり吸ったりしたでしょう。あれって自然じゃないよね。

確かにそうだけど。

体育の時間に50メートルを全力で走った後とか、口を開けて思いっきり息を吸い込んだりしない?

する、する。だって、そうしないと苦しいんだもん。

どうして、全力で走った後は息が苦しくなるのかな?

 

肺の中はどうなってる

どうしてだろう。

朝ごはん、できたよ。

ママ教えて、今日もわからないことが1つあるの。息が苦しいときって、口を大きく開けてたくさん空気を吸い込むでしょう。あれって、たぶん大事な酸素を体の中に入れてるんだよね。でもさ、酸素はどこに行くんだろ。

とてもよい質問ね。どこに行くと思う?

肺だよね、それはわかってるんだ。でも肺に入った空気、というか酸素はどうなるの?

空気が気管を通じて肺に入る話はしたよね。気管は2つの主気管支に分かれて左右の肺の中に入っていく。主気管支は肺のなかでまた2つの気管支に分かれる。

じゃあ、肺の中で気管支は4本あるの?

実は気管は肺の中で23回、2つに分かれるんだよ。どんどん枝分かれしていくわけだね。

カホは計算が得意でしょう、ちょっと計算してみたら?

2回分かれたら、2✕2で4だよね。それがまた2回分かれるから、4✕2は8って簡単じゃん、8✕2、16✕2、32✕2、64✕2はえっと128で、128✕2は256か。これで9回って、あとまだ14回も計算って暗算じゃ無理だよ。

23回分かれると全部で830万本ぐらいになるんだ。

え~っ! 私の肺の中にも800万本以上もの細かい管があるってこと?

 

肺の中のミクロの世界

ママの肺の中も同じだよ。

この胸の中に800万本も詰まってるとしたら、1本は一体どれぐらいの大きさなんだろ。

分かれた先のいちばん細いところで直径が0.2ミリぐらいだね。

そんな細い管の中には何が入ってるんだっけ?

空気というか、大切なのは酸素だよね。

肺の中の細い管の中に入っている酸素は、どうなるのかな?

人の体の中には、ほかにも大切な管があるよね。

……! 血管だ。もしかして、血管も肺の中を通ってるの?

そのとおり。実は肺の中の気管支の先っちょは、こんなふうになってるんだ。この袋みたいになっているところが「肺胞(はいほう)」と言ってね、左右の肺にあるのを合わせると、だいたい3億から5億個ぐらいあるといわれてるんだ。

億ってあの一・十・百・千・万・十万・百万・千万・億のこと?

ちょっと想像もつかないかもしれないね。でも気管支の先端は800万ぐらいあるわけでしょ。だから一つの気管支に50個ぐらい小さな袋(肺胞)がついていると思えばイメージが湧くんじゃない。

なんとなく想像できるかも。

それでその小さな肺胞を毛細血管が取り巻いているんだよ。

毛細血管って何だったっけ?

動脈と静脈はわかるよね。その動脈と静脈をつなぐものすごく細い、だいたい7ミクロンメートルぐらいの太さの血管だよ。

めちゃくちゃ小さい肺胞に、めちゃくちゃ細い血管が巻きついてるんだね。

 

ミクロの世界で起こっていること

そこだよ大事なのは。肺胞の中には酸素があるよね。その酸素は、人の体に必要。だとしたら、どうやって体のいろいろなところに運ぶんだろう?

もしかして……。血管を通して運ぶの?

そのとおり。

血液は何でできているのか知ってるかな?

それはテレビの番組で見たことがあるよ、赤血球と白血球と血しょうだったかな。赤血球が赤、白血球は色がついていなくて、血しょうは水みたいなものでしょう。

細かくいえばほかにもあるけれど、だいたいそんなところだね。その中の赤血球が酸素を運ぶんだ。

もう少し正確にいうと、赤血球の中にあるヘモグロビンに酸素が取り込まれるんだよ。だからヘモグロビンは酸素を運ぶボートみたいなものね。

そのボートに乗せられて酸素は体のあちこちに運ばれていくんだね。

肺からヘモグロビンに乗せて酸素が運ばれていくとすると、その酸素は体のどこかで使われるよね。乗せていた酸素がなくなったヘモグロビンは、どうなると思う?

もしかして二酸化炭素?

当たり!

吸い込む息の中には酸素が含まれていて、吐き出す息の中には二酸化炭素が含まれているんだよ。つまり、体の中では肺から運ばれた酸素が使われて、二酸化炭素がまた肺に運ばれてきて、体の外に出ていくの。おもしろいでしょう。

ちょっと待ってね。えっと、肺から酸素が体の中に運ばれて、二酸化炭素が体から肺に運ばれてくる……。ということは、体の中で酸素が二酸化炭素に変わってる、っていうことなの?

 

・人の肺の中には800万本もの細い管がある
・肺の中に入った酸素は、血管を通して体全体に運ばれる
・酸素を運ぶのは、血液の中のヘモグロビン
・体の中で酸素が二酸化炭素に変わる

 

 

カホちゃんのギモン シリーズ